『謝肉祭』で結婚を言い訳にせずセールスを回復させた山口百恵

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『謝肉祭』は山口百恵にとって29枚目のシングルリリースである。リリースに先立ち記者会見を開いた山口百恵は、三浦友和との結婚とともに、芸能生活からの引退を発表した。となると心配されるのは『謝肉祭』のセールスだが、『ザ・ベストテン』では久しぶりに1位に到達し、結婚したことを理由にしない底力を見せてくれた。

「あるとき、私は山口百恵に尋ねた。/『一億人の喝采を浴びて歌うのと、たったひとりの喝采を浴びるのと、どちらが気持ちよく歌える?』/彼女は躊躇なく答えた。/『もちろん、ひとりの人のためです』」(『神話を築いたスターの素顔』)

この歌のリリースに先立つこと2週間前の3月7日。山口百恵は大きな決断を記者会見で発表する。彼女の右隣には、事務所の社長ではなく三浦友和が座っていた。

すでに交際宣言をしていたから、交際相手が同席ということでその内容はおおかた見当が付いた。ただ、彼女の宣言は、たんなる結婚宣言ではなかった。彼女はいつものように凛としてこう述べた。

「我が儘な生き方を私は選びました。(正式には)11月19日、挙式以降(で、実質的には)それ以前の日にちとしては10月15日ということで、お仕事は全面的に引退させて頂きます」

『謝肉祭』(1980.03.21)

謝肉祭
謝肉祭/イントロダクション・春
作詞者 阿木耀子
作曲・編曲者 宇崎竜童(編曲:大村雅朗)
CBS・ソニー

結婚しても歌は続けられるはずだが、山口百恵は完全に引退、芸能界から足を洗うというのだ。堀威夫は大変なショックを受けた。

「しばらくの間、心の体制を立て直すのに時間が必要なほどだった。現代っ子といわれるこの年格好の娘が、地位、名誉、収入を捨てて家庭に入る、という決意に舌を巻いた。/瞬間、『これはホリプロの敗北だ』と感じた。我々のマネージメントが、友和、そして家庭の魅力に勝てなかったのだ」と述懐している(『いつだって青春』)

29枚目のシングルである『謝肉祭』は、『しなやかに歌って』『愛染橋』など、山口百恵の交際宣言以来、不振だったセールスを挽回することがスタッフのテーマだった。

「交際」からさらに進んで「結婚宣言」までされた中での取り組みだったが、『愛染橋』では10位まで落ちていたオリコン順位を4位まで戻し、『ザ・ベストテン』では久しぶりに1位に到達できた。

フィンガーアクションも加わった、パンチのある歌いっぷりだった。

この前の『愛染橋』が惨敗したとき、酒井政利は山口百恵交際宣言それ自体に責任があるのではなく、それによってスタッフの側が、「この娘は恋をしているんだ! と思ってしまうと、つい情に流されて、つくる歌もパンチを欠」いたことを原因とした。

結婚宣言をして勢いを戻せたということは、酒井政利の分析が正しかったことになる。いや、かりに正しくなくても、とにかく作る側にとっての発奮材料となる分析だったことは間違いない。

これは、タレント事務所だけでなく、私達の仕事や勉強の業績にもつながる教訓だ。~~のせい、というのは簡単だが、安易に逃げる「言い訳」ではなく、自分への課題とする分析をすることが前向きである、ということだ。

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