『としごろ』でおとなしめのデビューだった山口百恵

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『としごろ』といえば、50代以上の人なら山口百恵のデビュー曲を思い浮かべるだろう。レコードの生涯セールスがピンク・レディー、森進一に次いで第3位。いや、それよりも全盛時に結婚してスパッと引退した「寿引退」が記憶に残る歌手として斯界に名をとどめた。しかし、阿久悠氏にいわせれば、「登場におけるインパクトは、とても桜田淳子の比ではなく、後の百恵神話を予測させるものはほとんどなかった」(『夢を食った男たち』)というからわからない。

新聞配達をして買ったギターで歌を口ずさみ、桜田淳子に遅れること3ヶ月。1972年12月の『スター誕生!』は第5回決戦大会に出場した。

桜田淳子と同じ牧葉ユミの持ち歌のひとつである『回転木馬』を歌って20社から指名を受けたものの、番組中最優秀の合格者であるグランドチャンピオンは韓国のシルビア・リーに取られてしまい、森昌子や桜田淳子のように「番組のチャンピオン」ではなく画竜点睛を欠いた「合格」だった。

萩本欽一は、当時の山口百恵についてこう振り返っている。

萩本によれば、予選で1番に輝いていたのが淳子、2番目は会場の得票だけで合格ラインに達した石野真子、そして最も輝いていなかったのが百恵だった。
 それでも、今の言葉で言う「プレていない」姿勢は感じた。萩本は番組スタッフに「あの子は何か背負っているものがあるの?」と開いた。
「母親と妹の3人で暮らして、新開配達で家計を助けています」
 萩本は、同情とは別の部分で、その執念を理解した。立っているだけで哀愁を感じさせ、この子が有名になることで幸せになるなら後押ししたいと思った。
「それは百恵ちゃんと清水由貴子(09年に自殺)の2人だけだったね」『アサヒ芸能』(2013年1月3.10日)

ということで、デビュー曲は『としごろ』だった。

『としごろ』(1973.5.21)

としごろ
としごろ
山口百恵
作詞者:千家和也
作曲・編曲者:都倉俊一(編曲も)
CBS・ソニー
松竹映画『としごろ』主題歌

「人にめざめる14才」というキャッチコピーがついた山口百恵のデビュー曲である。「陽に焼けた あなたの胸に 目を閉じて もたれてみたい」という始まりは、後の山口に比べるとかなりおとなしめの恋歌だ。

この歌は、73年4月に公開された松竹映画『としごろ』の主題歌として作られた。

同作の映画は、主演が和田アキ子、他に石川さゆり、森昌子などが出演したまさに“ホリプロ映画”だったが、もちろん山口百恵も出演。ホリプロとしてはかなり力を入れたデビューといえる。

だが、セールスは7万枚でオリコンは37位。新人賞を取った森昌子(『せんせい』が51万枚で3位)、桜田淳子(『天使も夢みる』が12万枚で12位)らに比べて大きく後れを取った。

四方方犬彦は、そんな山口百恵のことを遠慮会釈なしにこう記している。

「当時の百恵は華やかさにおいて淳子に、歌唱力において森昌子に差をつけられていて、どこか暗く地味な印象をもった少女にすぎなかった。太い足と腕、均衡のとれていない体型は、あらゆる意味で百恵に不利なように見えた。ただ彼女の三白眼と太い唇は、何か心の奥底に深く抑圧されたものの所在を暗示させるのだった」(『女優山口百恵』)

当時のホリプロ制作部長・小田信吾は、「当時はアグネス・チャンや桜田淳子など、明るさだけのアイドルが多かった。しかし、百恵には他のアイドルにはない“陰”があった。そこに強くひかれたんです」(「日刊スポーツ」95年7月14日付)と述懐している。

そこで、2曲目からはその「暗示」や「陰」に賭けることになった。いわゆる「青い性典」路線である。

女優山口百恵

女優山口百恵

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: ワイズ出版
  • 発売日: 2006/06
  • メディア: 単行本

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