『夏にご用心』は、今でも歌を口ずさめる人が多いのではないだろうか。35万枚を超すセールスを記録で、オリコンも最高位が2位につけた桜田淳子の17枚目のシングルである。B面に収録されたのは『白い少女のバラード』。タイトルがA面に比べて厳かだが、それもそのはずで、この年の夏に桜田淳子が主演した松竹映画『遺書 白い少女』の主題歌だった。
桜田淳子にとって35万枚を超すセールスは、『十七の夏』以来になる。
歌の方は、この年頃にありがちな好奇心が、開放的な夏なので実践にうつってしまうかもしれないという他愛ない悩みと自重の歌だ。
桜田淳子の持ち歌にありがちな「ご用心」という歌詞のリフレインを用いた(6度出てくる)子どもにもわかりやすい歌である。
この歌でも改めて感じるのは、桜田淳子の歌はまさに、アイドルが歌う王道といってもいいのではないだろうか。
オーソドックスな長調4拍子で、歌のモチーフは少女の恋の悩みや喜びを素直に表現したもの。そして、キーワードを繰り返す。
わかりやすくて歌いやすい。ということは、聴く者のアタマに入りやすいということだ。
それはサブリミナル効果になって、知らず知らずのうちに、いつもどこかで桜田淳子を思い出したり、彼女の歌を口ずさんだり脳内でそらんじたりするようになる。
そして、いつの間にか桜田淳子のファンになってしまう。
こんな見事なプロモーションがあるだろうか。
一方の山口百恵は、「青い性」路線から横須賀ツッパリ娘の路線に進んでいった。どちらが上か下かいいか悪いかではなく、2人は似ているとすら言われたが、その歩みは全く対極を行くものだった。
『夏にご用心』(1976.5.25)
夏にご用心/白い少女のバラード
作詞者 阿久悠
作曲・編曲者 A面:森田公一(編曲:高田弘) B面:森田公一(編曲:竜崎孝路)
ビクター
B面『白い少女のバラード』は、桜田淳子主演映画『遺書 白い少女』の主題歌である。
19歳の少女・中原亜砂子(桜田淳子)と、白血病に犯された雑誌のさし絵画家・二宮峯雄(田中健)の悲恋物語だ。
題名の「白い少女」とは、亜砂子をモデルにした峯雄による絵のタイトルで、原作は落合恵子の同名翻案小説である。落合恵子原作の映画は『スプーン一杯の幸せ』以来1年ぶりである。
桜田淳子の志向する青春路線に、落合恵子の描くヒロインが一致したのかもしれない。
桜田淳子は森昌子とともに、ドラマ初出演が『てんつくてん』という喜劇調のホームドラマ。映画初主演も『スプーン…』はさわやかな青春映画だった。
またバラエティ番組で秋田弁のコントなども嫌がらなかったので、この『遺書…』のような重い作品は当時めずらしく感じた。
この作品を機会に、そうした重い役にも桜田淳子はチャレンジしていくようになる。
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