『リップスティック』は桜田淳子23枚目のシングルである。すでに大人への路線にかじを切っていた彼女だったが、これは20歳になっての初リリースだった。オリコンは10位にランクインした。『ザ・ベストテン』では6週にわたりランクイン。最高位8位に入った。だが、これは結果的に、彼女の最後のトップテンランクイン曲になってしまった。
この前に歌っていた『追いかけてヨコハマ』に続いてのランクインになった。レコードのセールスは19.6万枚だから、ホームランとはいえなくてもエンドランが成功したライト線への手堅いヒットといったところか。
ということは、大人への路線転換がうまくいったのではないかとも思えるのだが、ヒットしたのはここまでだった。以後、彼女の歌はトップテン入りしていない。
時は流れて2013年10月。桜田淳子はデビュー40周年記念アルバムをリリースしたが、オリコン週間アルバムランキングで、約32年ぶりのトップ50入りを果たした。
『リップスティック』(1978.6.5)
リップスティック/トロピカル・ランデブー
作詞者 松本隆
作曲・編曲者 A面:筒美京平 B面:筒美京平(編曲:荻田光雄)
ビクター音楽産業
阿久悠は、「十四歳で、あるいは、十五歳でデビューした少女歌手たちを、どのようにして、作品によって年齢をとらせていくかが大きな課題であると、途中から考え始めた」と述懐している(『夢を食った男たち』)
アイドル歌手をアイドルとしてだけでフェードアウトさせず、歳をとっても歌手としてやっていけるにはどうしたらいいか、という話だ。
これは歌の世界にかぎらず、役者の世界でも大きな課題である。子役はどうして大成しないのか、というのは以前から言われていたテーマである。
阿久悠は桜田淳子に対して、「彼女の性格と遠いもの、遠いものを与えていくことによって、年齢の階段を昇らせた」としている。
この後にリリースしている『気まぐれヴィーナス』や『夏にご用心』は、マリリンモンローのイメージさえあったとまで書いている。
だが、セールスに反映されなかったということは、ファンにしっくりこないものだったのかもしれない。
正直、桜田淳子にマリリン・モンローを重ねるのは、戦略として成功とはいえないように見えるがどうだろうか。「遠いもの」はともかくとして、「交わらないもの」という気がするからだ。交わらなければ「与えていく」ことにはならない。
一方山口百恵は、阿木耀子と宇崎竜堂のコンビで「横須賀」を歌うという新たな世界を得ていた。
夢を食った男たち―「スター誕生」と歌謡曲黄金の70年代 (文春文庫)
- 作者: 阿久 悠
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/12/06
- メディア: 文庫
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