『愛染橋』が幸せすぎて振るわなかった山口百恵

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『愛染橋』は、山口百恵28枚目のシングルリリースである。本来なら結婚に向けた交際宣言で話題性十分の山口百恵だったが、肝心のセールスは惨敗だった。これは業界関係者も意外な結果だった。プロデューサーの酒井政利はそこで厳しく反省をしている。さらに、報告を受けた堀威夫は、あることを前提に引退までのある綿密なスケジュールを組み立てた。

『愛染橋』の歌の特徴は、タイトルに『横須賀ストーリー』以来の固有名詞採用を試みたことだ。『愛染橋』は実在する橋である。

かつて、名作『愛染かつら』で有名な、愛染坂を下ったところの川にかかっていた橋の名前なのだ。

歌詞の中にも京言葉を入れ、横須賀娘に新しい挑戦をさせてみたわけだ。

そして、この歌でシングルの総売上枚数が1000万枚を突破した。星の数ほど存在する古今東西の歌手の中で、ピンク・レディー、森進一続いて史上3人目というから途方もない快挙である。

だが、この歌に限っていえばセールスは芳しくなかった。オリコンでは10位、レコードの売り上げも20万枚を超えるにとどまったのだ。山口百恵の格と人気、そしてこの時期の話題性を考えると、商業的には成功作とは言えなかった。

なぜ、このような惨敗を招いたのか。

『愛染橋』(1979.12.21)

愛染橋
愛染橋
作詞者 松本隆
作曲・編曲者 堀内孝雄(編曲:萩田光雄)
CBS・ソニー

原因は、やはり三浦友和との恋人宣言にあった、と酒井政利は見ている。

結婚を発表したアイドルでは商品価値はないのか。

いや、酒井政利はそうは言っていない。引用するので読んでほしい。

「一億人の娼婦になれー!/私たちスタッフは、そんな思いと意気込みで仕事を進めてきた。ところが、その山口百恵に恋人がいることを世間に宣言してしまったのだ。スタッフに与えた影響は大きかった。/この娘は恋をしているんだ! と思ってしまうと、つい情に流されて、つくる歌もパンチを欠くことになる。この頃の歌が『しなやかに歌って』や『愛染橋』である」(『プロデューサー』)。

酒井政利の分析をもう一度平たくまとめてみよう。

酒井政利は、売り上げが落ちたことについて、ファンが落胆したから売り上げが落ちてしまった、などと素人でもできるありふれた分析をしていない。つくる側のモチベーションに原因を求めている。

作る側さえ今までのモチベーションだったら、こんなことはなかったと嘆いているのだ。

そのような厳しい眼こそが、名プロデューサー・酒井政利の真骨頂であろう。

そうなのだ。ファンや山口百恵の責任にすれば話は簡単かもしれない。

しかし、山口百恵の結婚は厳然たる事実である。ファンが買う気になるかどうかは作品の質による。さすれば、結局売れるかどうかは作る側のモチベーションという考え方は理にかなっているではないか。

交際があれば、その次は結婚宣言になる。ただ、彼女の場合はたんなる結婚ではなかった。山口百恵は、この頃、ホリプロの総帥・堀威夫に“引退”を相談。堀威夫はいったんは放心状態になるが、気を取り直してその後3ヶ月間、社内すら極秘で引退までのスケジュールを組み立てた。

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  • 発売日: 2014/02/25
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