『横須賀ストーリー』といえば、「これっきり、これっきり、もう…」というフレーズがお馴染みの、山口百恵13枚目のシングルである。「花の中三トリオ」時代に定めた山口百恵の路線といえばの「青い性典」路線。千家和也と都倉俊一のコンビで作られてきたが、この曲から作詞・阿木耀子、作曲・宇崎竜童のコンビが中心になる。横須賀ツッパリ路線といったところだろうか。
『70’sセブンティーズ』(交通タイムス社)というムックが上梓されたことがある。70年代のスターについての読み物が掲載されている。山口百恵、中山律子、ローラ・ボーなどについて書かれている。
同書によると、無口な山口百恵が、ある日、酒井政利氏にボソッとこうつぶやいたという。
「ダウンタウンの曲を朝まで聞いていたんです」
禅問答ではないが、これを聞いた酒井政利氏は、山口百恵はロックっぽいものを歌いたいのかな、と感じて阿木耀子、宇崎竜童に連絡を取ったと書かれている。
これが、山口百恵の横須賀ツッパリ少女路線も始まりである。
『横須賀ストーリー』(1976.6.21)
横須賀ストーリー/GAME IS OVER
作詞者 阿木燿子
作曲・編曲者 A面:宇崎竜童(編曲:萩田光雄)B面:宇崎竜童(編曲:船山基紀)
CBS・ソニー
この時点で山口百恵は17歳。難しい年齢である。「青い性典」路線は、あくまで「性的に未成熟でありながら」性的に挑発する路線であり、山口百恵自身が歳を取ることでその方向性も変えていかなければならなかった。
中学生でデビュー。「スタ誕三人娘」である「花の中三トリオ」はユニットとして進級していったが、実年齢の成長に合わせて歌をどう変えていくかというテーマは彼女に限らず、森昌子や桜田淳子、さらには番組の合格者を含めて若くしてデビューしたアイドル達すべてにかかわってくるものである。
そこで山口百恵はこの歌を歌った。横須賀ツッパリ路線にかじを切ったのである。
阿久悠氏はこの路線次のように評している。
「酒井政利というという劇的を好むプロデューサーの手によって、千家和を也、都倉俊一のコンビから、阿木耀子、宇崎竜堂のコンビに代わることで、ドラマの色彩を変えて、見事な虚構を構築し、年齢を意識する必要をなくした」(『夢を食った男たち』)。
山口百恵はそのテーマをうまく乗り切ったということだ。そういえばタイトルといい歌詞といい、ダウン・タウン・ブギウギ・バンドの『港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ』も、「横須賀」が出てくるブルース調で「あんた、あの娘のなんなのさ?」というフレーズが目立っていた。
この歌はまさに、劇画チックな阿木&竜童ワールドの典型。なかなか到達できなかったオリコン1位にも輝いた。
夢を食った男たち―「スター誕生」と歌謡曲黄金の70年代 (文春文庫)
- 作者: 阿久 悠
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/12/06
- メディア: 文庫
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