『ニッポン無責任野郎』でエスカレートさせた無責任ぶり

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『ニッポン無責任野郎』は、『ニッポン無責任時代』に続く植木等の「無責任シリーズ」第2弾である。1962年12月23日に公開されているので、1963年の「お正月映画」というわけだ。どの映画会社も、お正月はかきいれどきなので客が入る映画を持ってくる。その意味で、前作は「お姐ちゃんシリーズ」との抱合せ的な配役だったが、今回は早くも東宝の看板作品としての扱いを受けているわけだ。

今回も監督は古澤憲吾、脚本は田波靖男と松木ひろしである。前作は平均(たいらひとし)だったが今回は源等。基本的なキャラクターを引き継いでいるが、ハチャメチャはエスカレートしている。

ニッポン無責任野郎

それをもって、植木等主演の映画としては最高傑作の呼び声も高いのだが、私個人の好みでは、その後の「日本一シリース」、または坪島孝監督による「クレージー作戦」シリーズのほうがいいような気がする。

いや、さすがに本作は“ちょっとやり過ぎなんじゃない”という気がするのだ。

あくまでも個人的な考えであるが……。

無責任=ちゃらんぽらんではなく、既存の価値観から「自由」という意味で、失敗しても全くめげず、底抜けの明るさで、大きなホラやデマカセで自らの退路を断って(?)成果を得る。

このパターンこそ、○等演じる植木等、および東宝クレージー映画の魅力であることは異論ないと思うが、今回の冒頭シーンのように、続けざまに物をちょろまかしたり人を騙したりするのは、ただのならず者になっていないだろうか。

『ニッポン無責任野郎』は電車をタダ乗りするところから始まる。火を借りるふりして他者のたばこをちょろまかし。バックする車にデタラメな指示をしてぶつけさせ、遁走している時にぶつかった長谷川武(ハナ肇)の行きつけの店に強引に。

長谷川の会社の情報を聞き出し、もちろん勘定は長谷川持ち。挙句の果てに帰りのタクシー代も1万円札(今の8~10万円)を長谷川に出させてお釣りまでせしめる。

自宅は家賃滞納で追い出されて住むところもない。

この冒頭の部分、できれば何か救いがあればと思った。

ひとつひとつのエピソードは、他の作品にもある。だが、それをたてつづけに見せられると、そういうことだけの人間に見えてしまう。そうなると、「この男にはマコトが全くないのか」ということになってしまうのだ。

ルール違反をしないキャラクターを描けということではない。

たとえば電車賃をちょろまかすのではなく、駅員も認めるフリーパスであるとか、もっと大胆な「ならず者」としてえがいて欲しかった。そうすることで、ではこの男のどこにそんな魅力があるのか、という見るものの関心につながっていくからだ。

そうでなければ、後の『怪盗ジバコ』ではないが、数々の無礼が最後に大きな誠実さにつながっているとか……。

ストーリーの最初に、ただのセコイ犯罪者ぶりを見せてしまうのは、見る者が感情移入しにくくなってしまうような気がするのだがどうだろうか。

実際、その後のストーリーは、必ずしも犯罪行為しかできないならず者ではないだけに、ちょっと惜しい気がする。

あらすじ(ネタバレ御免)

さて、源等は長谷川が部長を務める明音楽器が、次期社長を巡って長谷川がつく王仁専務(犬塚弘)派と、一方で幕田常務(人見明)派が激しく対立している。

源等はいきなり病気ということで入院している現社長・宮前(由利徹)を訪ね、様子を探った上で見舞いの果物カゴをもらってくる。それを今度は幕田常務のところに「社長就任おめでとうございます」とデマカセをいいながら持って行き、また様子を探る。

こういうところは、「無責任」どころか、リサーチを自ら行う「できる男」である。

◯等のモットーである「楽して儲けるスタイル」というのは、実は「必要十分に動く」ということだったのだ。セコイちょろまかしなどなくても、こういうキャラクターを存分に見せてくれればいいのになと思うのだが。

そして翌日、源等は明音楽器を訪ね、王仁専務を上手に売り言葉に買い言葉で自らの入社を認めさせる。

そして、営業部の丸山英子(団令子)の50万円の預金通帳を盗み見すると、さっそく丸山英子をデートに誘い、喫茶店の代わりにお茶を自由に飲める銀行で結婚を申込む。

その際、預金を100万円持っていると大ボラを吹いた源等は、得意先からの集金を自分の通帳に入れて体裁を保つ。しかも、その集金は得意先の経理担当(安田伸、桜井センリ)に会社に無断で飲ませ食わせして回収したものだった。

さらに、丸山英子のルームメイトである石沢厚子(藤山陽子)を会社の中込晴夫(谷啓)が想い悩んでいるのを知り、相談にのると行って家に入り込み、そのまま下宿人になる。

派閥抗争なんて猿のボス争いのようなものだと考える源等は、王仁専務に入社させてもらってにも関わらず、幕田常務夫人由紀子(中北千枝子)の機嫌を伺い、自分と丸山英子の会費制の結婚式の仲人を幕田夫妻に頼む。

長谷川と、行きつけのバーのママ・静子(草笛光子)には、双方に気があるように話を持ちかけ、2人をその気にさせる。

丸山英子は50万円貯めるだけあってがっちり型。源等にのせられて結婚したが、食事代も割り勘。彼女がアパートではなく一軒家に住みたがっているので、ちょっとしたおせっかいで結びつけた中込晴夫と石沢厚子の代わりに、晴夫の母・中込うめ(浦辺粂子)の面倒を見る条件で中込家に住む。

その際、中込家の庭の植木を伐採して強引に駐車場にする。中込うめは仕事と金を得て活き活きとし、合わなかった嫁の石沢厚子に「うちに戻ってこないか」と言う。

このへんの源等の行動は、強引で常識的ではないが、合理的で、かつ冒頭のシーンにあるような明々白々な犯罪行為はない。

まあ、見ず知らずの人間(石橋エータロー)の結婚式に紛れ込んでごちそうを食べたのはまずいが、一応歌を披露して「一飯の恩義」には報いている。

自分の通帳と言っても、「見せ金」で一銭の出し入れもせず通帳ごと会社にわたしているので、会社は詐欺で告訴できないだろう。

ここまでは、前作、もしくはこの後のシリーズのキャラクターと合致するが、今回はそこにもう一発、明らかな詐欺行為が入る。しかも、かなりつまらない詐欺である。

サックス吹きのゲーリー(ジェリー伊藤)を、技術提携をしたいとのふれこみでアメリカ・スミス楽器の御曹子を演じさせ、王仁、幕田両派からリベートを取る。もちろん、ゲーリーはすぐに化けの皮をはがされ、回収金を会社に入れなかったことも合わせて解雇される。

だが、その後、明音楽器次期社長は結局、王仁、幕田どちらも選ばれず、北海物産から前作の平均が社長としてやってくる。秘書は源等、というオチである。

最後に逆転社長になるのは『ニッポン無責任時代』と同じだが、前作は伏線があった。今回はどうして平均の秘書になったのかがわからない。後半の詐欺もあまりにも稚拙で、前半の源等と合致しない。

ことほどさように、無責任という方向性でストーリーを作るのはもうむずかしいと思ったのかもしれない。

この次から、方向性を少し変えた「日本一シリーズ」に移っていく。

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