『日本一の若大将』(1962年、東宝)は、若大将シーズの3作目である。例によって、悪気がなく正義感のあるすき焼き屋の坊っちゃん・田沼雄一(加山雄三)が、京南大学4年生でマラソン部のキャプテンをつとめ、卒業後の就職内定まで決める話である。
本来予定されていた若大将シリーズは三部作であり、これは完結編という前提で作られたという。
『大学の若大将』の記事で述べたように、『大学の若大将』『銀座の若大将』『日本一の若大将』の3作で、若大将シリーズはストーリー的にはほぼ完結した。
しかし、その3作が好評でが、人気シリーズとなったため、基本的な設定と主要な登場人物はそのままに、しかし毎回のストーリーは『男はつらいよ』のようにつながっているわけではない、一話完結がその後も14作作られた。
つまり、本作『日本一の若大将』で、一応ストーリーは一区切りつく。
それは、若大将が大学を卒業を間近になり、就職の内定を貰うからである。
『大学の若大将』として、高度経済成長が始まったといわれる右肩上がりの1960年代、レジャーブームの先端を行くスポーツを楽しみ、歌を歌い、楽器を奏で、青春を謳歌する若大将の話が始まった以上、大学生活の終了は、やはり一区切りである。
まあ、実際には、シリーズ後半は、加山雄三も30歳になり、さすがに学生では苦しく、就職をすることになるのだが……。
いずれにしても、1960年代の東宝は、森繁久彌の社長シリース、クレージー映画、喜劇駅前シリーズと、3つの人気シリーズがあった
これらの3シリーズには、大人の喜劇という前提に、役者の演技力や文芸的な興趣をいろいろ語ることができるが、若大将シリーズはそういう難しいことは一切抜き。
よくもわるくも悪気を知らない若者が、若者らしい失敗をしながらも、最後は観客を絶対に裏切らずハッピーエンドになるという、安心して観ていられ、すがすがしい気持ちになれるストーリーである。
ドラマツルギーがほぼ確立
本作の若大将・田沼雄一(加山雄三)は、前回同様京南大学4年生。
今回のスポーツはマラソン部。もちろん若大将がキャプテンである。
いつもは、異なる立場から一応張り合ったつもりになっている青大将こと石山新次郎(田中邦衛)が、マラソン部のマネージャーになるのだ。
事の発端は、実家からの仕送りを止められ、アルバイトをしなければならなくなったマネージャー・江口(江原達怡)が、後任に青大将(田中邦衛)を推薦したのだ。
最初は嫌がっていた若大将だが、とくに大きな抵抗もなく結局は受け入れている。
つまり、若大将シリーズは、一見青大将が敵役のように見えるも、実はそうではなく若大将とも友達なのだ。
この後の『南太平洋の若大将』でも、3人は水産大学の実習で、同じ船にのる同じ班である。
東宝の青春映画らしく、“真の悪役”はいないのである。
江口(江原達怡)のアルバイト先は、若大将のすきやき屋“田能久”になった。
若大将の父・久太郎(有島一郎)は、「うちは住み込みじゃなきゃダメだ」と断ったところ、若大将の妹・照子(中真千子)に首ったけの江口(江原達怡)にとっては、むしろ好都合な話だった。
江口(江原達怡)は、若大将や青大将に相談して、サクラを使い、照子の見合い相手(藤木悠)に恥をかかせてしまう。
それ自体は久太郎(有島一郎)に叱られるものの、これで江口(江原達怡)と照子(中真千子)は恋人同士になった。
さて、今回の若大将と澄ちゃん(星由里子)は、カミナリ族(暴走族)に絡まれている、スポーツ店の女店員の澄ちゃんを若大将が救ったことから始まる。
2人の関係も毎度おなじみである。
お互いに好感を持つものの、ライバル女性や青大将の差し金でちょっとした行き違いや誤解や嫉妬が生じ、ですみちゃんはスネて若大将を悩ませる。
だが、最後のスポーツ大会の時には誤解もとけることになっている。
そして、すみちゃんが寂しくなった時代替要員に、すみちゃんに一目惚れの青大将が利用される。
今回も、青大将はすみちゃんにイカれる。
いいところを見せようと、すみちゃんの店から400万円のボートを即決で買い、頭金に200万円家から持ちだしたために、いくら青大将の家が金持ちでも勘当である。
すみちゃんから相談されると、祖母のおりき(飯田蝶子)が父・久太郎(有島一郎)の口座から無断で金をおろし、それで残金を払った若大将も勘当されてしまう。
おりき(飯田蝶子)は、いつも孫の若大将の味方なのだが、時々やり過ぎて、若大将の勘当のきっかけを作ってしまう。
一見、おりき(飯田蝶子)の行為が「裏目に出ている」わけだが、よく考えると、若大将を自由にしてやるきっかけを作っているともいえる。
それはともかくとして、すみちゃんは、ヒロインなのに、トラブルメーカーだ。
若大将は、どうしてこんな面倒な女性が好きになるのだろうか、とも思うが、それは、若大将が悪気を知らないボンボンだからであろう。
夏休みの芦ノ湖畔合宿は、芦ノ湖にボートを置いて行われた。
合宿費稼ぎの、水上スキー・コンテストで優勝した若大将は、プレゼンターであるスポンサーの社長令嬢美幸(藤山陽子)に気に入られ、ボートで話をする。
そこに、週刊誌のトップ屋(草川直也)が現れ、写真を撮られてに書き立てられる。
例によってすみちゃんが誤解する。
いくら社長令嬢でも、そのぐらいで週刊誌に書かれるというのは、皇室の女性か、もともとメディアで名前が売れていないとあり得ないだろう、というツッコミをしてはならない。
しかも、青大将が本気ですみちゃんを好きになったのを知り、若大将は言い訳もせず身を引こうとする。
それだけでなく、江口(江原達怡)が照子(中真千子)に本気であることを知り、江口(江原達怡)のことを考え、自分は店を継がずに就職しようと会社の採用試験を受験する。
要するに、悪気を知らない人のいいボンボンは自己犠牲を厭わないのだ。
ところが、面接官は偶然青大将の父親(上原謙)である。
青大将の父親は毎回変わるが、いずれにしても会社をいくつも持っている金持ちである。
若大将は、青大将の父親(上原謙)に青大将のことを尋ねられると、女にだらしがない父親でグレていた青大将だが、今更正しつつあると打ち明けて父親に恥をかかせる。
まあ、普通はそんなことを暴露したら試験は通らないと思われるが、結局その友達思いが伝わって採用に。
そして、若大将シリーズのクライマックスはスポーツ大会である。
今回はマラソン部だから全日本マラソン大会。
若大将は、青大将(田中邦衛)のためにすみちゃんのことで身を引いたため、調子が出なかった。
しかし、自分のために身を引いてくれたと青大将から聞いたすみちゃんは、何と走っている若大将に近づき「好きよ、すきすき」と連発する。
例によってここは、マラソン大会でギャラリーから走っているランナーに近づくなんてあり得ない、とまじめに考えてはいけない。
田能久では、おりき(飯田蝶子)、久太郎(有島一郎)、江口(江原達怡)、照子(中真千子)らがテレビで大会を観戦していたが、そこに若大将の内定通知が届く。
江口(江原達怡)はすぐに若大将の意図を察し、「ぼくのために、後を継がず就職する気なんです」と久太郎(有島一郎)に教える。
もちろん、大会は、すみちゃんとの関係が正常化した若大将は元気が出てきて逆転優勝する。
ラストは、出演者全員が田能久に集まって、加山雄三が歌ってハッピーエンドである。
これによって、若大将シリーズのドラマツルギーがほぼ確立した。
以後のシリーズ14作品は、3作で確立したキャラクターと大まかな展開をもとに、舞台に地方や外国を選んだ、加山雄三のプロモーション+観光映画のような作り方になった。
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