今日は淡路恵子さん(1933年7月17日~2014年1月11日)の生まれた日です。「戦後の映画史で非常に重要な役割を担った人」(山田洋次監督)女優ですが、私生活では離婚や、お子さんの事件・自殺など不幸も経験しています。今日はその淡路恵子さんの生き様を振り返ってみます。
淡路恵子さんは、日本の映画史において重要な役割を担った女優であり、その波乱に満ちた生涯と個性的な魅力で多くの人々に記憶されています。
生い立ちと初期のキャリア
「煙草は私の6本目の指」と公言していた淡路恵子。大好きだったなぁ…
晩年、バラエティタレントとしてひと花咲かせていた最中に病に倒れ逝ってしまったのは本当に残念だった。 pic.twitter.com/sp8Udcb5ID— 函館のシト (@hakodatenoshito) May 6, 2025
1933年7月17日に東京品川区で海軍軍人の娘として生まれた淡路恵子さんは、名門の府立第八高等女学校(現・東京都立八潮高等学校)に在学中、松竹歌劇団(SKD)に合格し、卒業を待たずに退団して芸能界の道に進みました。
その後、松竹、そして東宝の映画やテレビドラマで活躍の場を広げました。
映画界での活躍と「マダム」像
特に東宝では、森繁久彌主演の「社長シリーズ」やクレージーキャッツ主演の「クレージー映画」、そして「喜劇駅前シリーズ」といったドル箱作品に不可欠な存在として出演しました。
これらの作品では、足を組み、タバコを片手に森繁久彌や植木等といった男性を誘惑する「マダム」役が定着し、その派手で都会的なイメージは当時の観客に強い印象を与えました。
幼い頃には「ケバケバしいおばさん」といった印象を持つ人もいたようですが、その存在感は唯一無二のものでした。
結婚と休業、そして復帰
私生活では、ビンボー・ダナオとの事実婚解消後、俳優の萬屋錦之介さんと再婚。
この再婚を機に、彼女はレギュラーの仕事をすべて降板し、一時的に芸能活動を休止しました。
しかし、約20年後の1987年には、国民的映画「男はつらいよ」シリーズの第38作『男はつらいよ 知床慕情』でスクリーンに復帰。
この作品では、三船敏郎さん演じる頑固な老人との「老いらくの恋」を演じ、コミカルかつ感動的なシーンを創り出しました。
奇しくも、彼女が一時休業するきっかけとなったのが渥美清さんの作品(『父子草』)であり、復帰作も渥美清さん主演の「男はつらいよ」シリーズだったことは、彼女のキャリアにおける興味深い巡り合わせと言えるでしょう。
着物姿が際立つ『父子草』
#石立鉄男 #命日
「父子草」(67年)故郷に戻れない男(渥美清)が苦学生の青年(石立鉄男)に息子の面影を重ね合わせ密かに仕送りを続ける木下恵介脚本の人情劇。若き日の石立鉄男がナイーブな青年を演じ、先日亡くなった星由里子も出ている。いい映画なのにあまり知られることがないのが残念。 pic.twitter.com/1Y13Vgx7lH— hayamin (@hayamin_tw) June 1, 2018
復帰前の代表作の一つに、木下恵介脚本、丸山誠治監督の『父子草』(1967年)があります。
この作品で淡路恵子さんは、阪急石橋駅前の屋台のおでん屋の女将を演じました。
従来の派手なマダム役とは異なり、着物姿で慎ましくも美しい女将を演じた彼女の姿は、多くの観客に新鮮な驚きを与えました。
物語は、渥美清さん演じる労働者が、石立鉄男さん演じる浪人生を息子のように見守り、経済的に援助するという心温まる内容で、淡路恵子さん演じる女将も、この人間ドラマを優しく見守る重要な役割を担っていました。
波乱の人生とドラクエ愛
淡路恵子さんが亡くなった時、訃報では「女優としては様々な作品にでて実績を積み上げてきたが、人生は波乱万丈」という書き方をされていました。
それは離婚や再婚とともに、自ら警察に突き出した四男が自殺したことなどをさしているのだと思います。
萬屋錦之介さんとの間に出来た四男の萬屋吉之亮さんは、淡路恵子さんの後援者や淡路恵子さんの自宅で窃盗をはたらくなど素行不良。
親のものを子どもが盗んでも、親族相盗例(家庭内の窃盗事件は家庭で解決してもらう)の原則から処分保留になるのが普通ですが、淡路恵子さんは厳罰を求めて告訴したため、四男は実刑判決を受けました。
“たんなる”窃盗なのに実刑になるほどクセが悪かったのでしょう。
淡路恵子さんは、仕事もなく荒れた息子について自分の存在が甘えの原因と気づき、その前年には弁護士立ち会いで親子の縁を切る念書も書かせていたそうです。
しかし、結局四男は2010年に自殺。「真人間になるまで息子とは会わない」と言っていた淡路恵子さんは、四男の葬儀にも出ていないそうです。
成人する前だったら、別の方法もあったかもしれませんが、成人してしまうと、教育のし直しとか、管理するといったやり方は通用しないので、むずかしいところです。
萬屋錦之介さんが甲にしきさんと不倫関係になったときは、萬屋錦之介に対して憎しみはなくても、けじめをつけることを求めて結局離婚しました。
晩年は、意外な一面で再び注目を集めました。
それが、芸能界屈指の「ドラゴンクエスト」愛好家という顔です。
特に人気テレビ番組『アウト×デラックス』にレギュラー出演した際には、「ドラクエは裏切らない」という名言を残し、ゲームに対する情熱を披露。その飾らない言動と、筋の通った生き方は、多くの視聴者に愛されました。
淡路恵子さんは、80歳まで現役の女優として活躍し、その生き様はまさに「大御所」と呼ぶにふさわしいものでした。
しかし、ドラクエ評論家にはなっても、決して仲間を批評するご意見番の仕事は受けませんでした。
自分にも実子にも厳しい姿勢を貫いた彼女は、まさに「筋の通った」人物だったと言えるでしょう。
彼女の個性と存在感は、今もなお多くの人々の記憶に深く刻まれています。
コメント