『さらば、わが友 実録大物死刑囚たち』(1980年、東映)は凶悪事件の死刑囚たちが仙台拘置所に一堂に会した手記の映画化

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『さらば、わが友 実録大物死刑囚たち』(1980年、東映)は凶悪事件の死刑囚たちが仙台拘置所に一堂に会した手記の映画化

『さらば、わが友 実録大物死刑囚たち』(1980年、東映)は面白かった。戦後史上語りつがれる凶悪事件の死刑囚たちが仙台拘置所に一堂に会した話。原作はシャバに“生還”した実在の元死刑囚の手記。ギョロ目の磯部勉がさらに目の隈を作った熱演だった。(キャッチ画像背景は本編より)

磯部勉主演の実話が原作

今日は、磯部勉さんの誕生日である。

おめでとうございます。


磯部勉は、1972年に劇団俳優座に入団。

演出家の千田是也に師事し舞台経験を積み、NHKドラマ『風神の門』では主人公霧隠才蔵の宿敵である獅子王院に抜擢。

1980年代以降も大河ドラマではよくお見かけしたが、本日ご紹介するのは『さらば、わが友 実録大物死刑囚たち』(1980年、東映)という映画だ。

原作は、シャバに“生還”した実在の元死刑囚の同名の手記。

『さらばわが友 正』(現代史出版会/徳間書店)だと思われる。

戦後史上、今も戦慄をもって語り継がれる凶悪事件の死刑囚たちが、仙台拘置所に一同に介した話である。

収監された仙台拘置所における出来事と、死刑囚たちの実態を伝える力作。

同じような趣旨の本では、『塀の中の懲りない面々』(安部譲二)があるが、どちらかというと娯楽色が強い仕上がりなのに比べて、本作はすべて実在した事件の死刑囚の「実態」を描くことを目的としている。

中島貞夫監督が、共同で脚本も手がけている。

いきなり結論を書くと、「いゃあ、面白かった!」

とくに後半の拘置所のシーンからは、迫力、葛藤など、高揚感あふれる作品に仕上がっている。

どんな映画か

仙台拘置所には、次の凶悪犯が収監されていた。

カービン銃を使った防衛庁公金横領、高利貸し殺人事件の大沢謙一(磯部勉)←役名は仮名だが原作者
「三鷹事件」の竹内景助(愛川欽也)
「帝銀事件」の平沢貞通(高橋昌也)
千葉酒屋一家殺し事件の黒木清(永島敏行)
銀座バー“メッカ”殺人事件の正田昭(石田純一)
K子ちゃん殺人事件の坂巻(室田日出男)

原作には他にも有名な事件の犯人が出てくるが、映画の尺にあわせて人物を絞っているようだ。

主人公以外は永島敏行が仮名で、室田日出男も苗字しか出てこない。

ではすべて仮名かというと、一方で実名の人もいる。

その違いは何だろうか。

それにしても、帝銀事件と三鷹事件の死刑囚が、同じ拘置所で過ごしたという話自体、新しい史実を知った思いで驚きである。

原作によると、平沢貞通と竹内景助は、大物NO.1の座を争っていたという。

自分の置かれた立場は、それどころではないと思うが、譲れないところだったのだろうか。

判決が出ている死刑囚や、判決前でも、死刑見込みの者には、末尾が0の「証拠番号」が与えられるという。

大沢謙一(磯部勉)は、拘置所に入った時点では未決だったが、320という末尾が0の「見込み」の番号を与えられ、自分が死刑見込みであることを察して愕然とする。

どちらかというとギョロ目の磯部勉が、さらに目の隈を作ってそれを表現している。

映画のタイトルにある「わが友」とは、その「0」を与えられた6人の、決して先のない切ない友情を描いている。

背丈の厚さになるほどの枚数の上申書で生還

では、結局大沢謙一(磯部勉)も死刑になってしまうのか。

それが、大逆転で死刑を逃れる。

いったんは地裁で死刑判決を受け、流産した内縁の妻(岡田奈々)に別れも告げている。

黒木清(永島敏行)は、妹(マキノ佐代子)から差し入れられた、雑誌ののどに仕込んだ糸鋸で檻を切り裂き脱獄。

一目母親(菅井きん)に会いたくて、わざわざ危険な実家に向かうものの、あえなく捕らえられ、独房に入れたれた後に処刑されてしまう。

処刑前に、死刑囚に挨拶する永島敏行に、「元気でな」と叫ぶ竹内景助(愛川欽也)がなんとも切ない。

それを目の当たりにした大沢謙一(磯部勉)は、「俺は絶対逃げてやる!!」と決意します。

大沢謙一は、もともと聡明な人間。

当時、「アプレゲールの犯罪エリート」といわれ、刑務官(藤巻潤)からも、「キミは大学出なんだから、つまらないことで懲罰になっても、自分の得にならないことぐらいわかるだろう」と諭されています。

その頭脳を生かして、高裁では自ら証人尋問を行ったり、背丈の厚さになるほどの枚数の上申書を書いたりして、「無期懲役」を勝ち取ります。

同じ(慶応)大学出の死刑囚、正田昭(石田純一)は、その後処刑される。

竹内景助(愛川欽也)は、他の日本共産党員容疑者が無罪になってからは、党が支援活動から距離を置くようになったと妻(市原悦子)に報告を受ける寂しい日々を過ごし、最期は獄死してしまう。

16年で出所した大沢謙一は、自らの体験を書籍にし、それが今回映画化された。

人が人を裁くというのはどういうことだろう

大沢謙一の快挙は、その立場から見れば励みになるかもしれないが、裁判というものが、しょせん人間(裁判官)の心証で決まってしまうものなのだ、という“軽さ”も感じてしまった。

人が人を裁くってなんだろうね。

被害者感情を考えたら、加害者の友情もへったくれもあるか、と思われるかもしれない。

犯罪者をヒーローのように描くのはけしからん、といった倫理的意見もあろうかと思う。

私も、直接事件の被害者だったらどうかわからない。

しかし、「凶悪犯」の中には、三鷹事件の竹内景助のように、本当に判決通りの罪を犯したのか、疑わしい人もいる。

そもそも、私たちだって、いつ、何かの間違い(罠?)で、やってもいないのに「証拠番号0」を与えられないとも限らない。

事件自体は事実でも、実はその行為の背後に、裁判では明らかにならなかった真実があったかもしれない。

刑事事件の受刑者や死刑囚というのは、その時に生きる人間どもの価値観と、限られた能力や情報で裁かれているに過ぎないのだ。

もとより、どんな凶悪犯だからと言って、マスコミが一方的にどんな報じ方をしてもいいというわけではないし、真実を知る手立てとして、彼らの側からの情報があってもいいだろう。

いずれにしても、窮地に立たされた男が、がけっぷちで生に執着し、シャバへの生還を勝ち取る様子を、倫理に埋没せず、強靭な精神で映画化したことは、十分に価値がある仕事だと思う。

以上、『さらば、わが友 実録大物死刑囚たち』(1980年、東映)は凶悪事件の死刑囚たちが仙台拘置所に一堂に会した手記の映画化、でした。

さらば、わが友 実録大物死刑囚たち [DVD] - 磯部勉, 愛川欽也, 永島敏行, 中島貞夫
さらば、わが友 実録大物死刑囚たち [DVD] – 磯部勉, 愛川欽也, 永島敏行, 中島貞夫

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