『故郷ごころ』は、森昌子33枚目のリリースである。本格演歌の路線に進み、阿久悠ではなく山田孝雄と東海林良が作詞を担当している。一方、作曲は大御所の市川昭介である。もともといろいろな大御所から詞や曲を提供してもらっている森昌子だが、本格演歌路線に進むことで、そうした機会がむしろ多くなったのかもしれない。
A面が若手の山田孝雄、B面が作家としての活動も行う東海林良が詞を提供した。
『故郷ごころ』の「故郷」とは、生まれた町と「あなた」。いつの日も故郷のように「私」の胸に生きている。今住む町ではなく「故郷」であるのは、すでに別れてしまったから。だけれど、戻りたい気持ちはあふれるほどある。そんな思いを歌っている。
『春日和』は、タイトルが春の季語になっている。「私」にとっての「はじめての人」を、「約束の人だから」「ひとすじに」「賭け」ると真面目に思い詰めている歌である。
『故郷ごころ』(1980.2.21)
故郷ごころ/春日和
作詞者 A面:山田孝雄 B:東海林良
作曲・編曲者 市川昭介(編曲:小杉仁三)
キャニオン
レコード会社がミノルフォンからキャニオンにかわった森昌子だが、作曲は今回、遠藤実ではなくても市川昭介。阿久悠言うところの「主流」である。
新しい環境になったが、すっかり従来型の本格的演歌歌手になったといっていい。
それは、“ヘタでも既成のタレントにない新機軸”という、阿久悠が番組誕生時に出場者に求めていたコンセプトとは明らかに違っていた。
阿久悠は、番組を中心に振り返った自伝『夢を食った男たち』の第一章において、桜田淳子の誕生する経緯を真っ先に述べている。
一曲も詞を提供しなかった山口百恵はともかくとして、なぜ番組にとっても記念すべきデビュー第1号で、歌のうまさに度肝を抜かれたはずの森昌子を真っ先に書かなかったのか。
森昌子は“スタ誕出身”でなくても何らかのキッカケがあればデビューできる逸材であり、いずれスタ誕の臭いを消して王道を歩む歌手と考えていたからだと筆者は解釈している。
もちろん、『スター誕生!』出身だからといって、そのコンセプトから外れることがいけないというわけではない。ただ、少なくとも桜田淳子や山口百恵ほど、『スター誕生!』を絡めた書き方はなじまないかもしれないという話である。
「花の中三トリオ」といっても、桜田淳子と山口百恵は仲が良かったが、自分はそうでもなかったと自著で述懐している森昌子。それはたんに、2人が同じ中学同士というだけではなく、歌手としてのテイストもあったのではないだろうか。
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