『黒い画集 あるサラリーマンの証言』は1960年に東宝が制作した日本映画でビジネスマンの殺人事件をテーマにしたサスペンスドラマです。一般的なサラリーマンが不運な事件に巻き込まれ、その証言によって真実が明らかになるストーリーが描かれています。
黒い画集あるサラリーマンの証言(1960年、東宝)を鑑賞しました。
松本清張の同名の原作を橋本忍が脚色。小林桂樹が主演です。
監督は、その小林桂樹の当たり役である『裸の大将』のメガホンをとった堀川弘通です。
社長シリーズなどサラリーマン映画ではお馴染みの小林桂樹が、本作では喜劇ではなくシリアスなサラリーマンを演じています。
松本清張といえば、犯行の動機や葛藤がメインテーマとなる推理小説を多々発表しています。
小林桂樹については、社長シリーズ(1956年~1970年)と『裸の大将』(1958年)については観ているのですが、同時期の別の役はほとんど観ていないので、今回の鑑賞は非常に楽しみでした。
不適切な関係と偽証が引き起こす破滅的展開
銀座にある毛織会社の管財課長・石野(小林桂樹)は、月給7万5000円、賞与40万円で、家族は妻と一男一女の恵まれたサラリーマン。
ラーメン1杯40円、初任給1万5000円の時代ですから、今で言うと月給90万円ぐらいか。
それでいて、さして重職とも思えないポストにいると、やることといったら女子社員・梅谷(原知佐子)との不適切な関係になってしまうようです。
仕事の帰りに新大久保にある梅谷のアパートに寄った際、石野は近所の保険募集人・杉山(織田政雄)とすれ違い、近所のよしみで会釈します。
数日後、石野は刑事(西村晃)の訪問を受けます。杉山が新大久保で石野と会ったと言っているが、本当かと確認に来たのです。
梅谷との関係がバレてしまうと考えた石野は、「渋谷で映画を観ていたので会っていない」と答えます。
そして、念のため梅谷を新大久保から品川のアパートへ転居させます。
杉山は、向島の若妻殺しの疑いで逮捕。今度は石野は、検事(平田昭彦)に呼ばれ、改めて杉山証言について問われますが、そこでも否定します。
会ったことを証言すれば、杉山のアリバイが成立して杉山は無実で釈放されます。
しかし、アリバイが成立しなければ冤罪の殺人犯です。
この頃から石野は、本当のことを言うべきかどうか葛藤し始めます。
さらに、杉山の妻(菅井きん)と弁護士(三津田健)も石野宅にやってきますが、石野の否定は次第に曖昧になり、石野の妻(中北千枝子)は懐疑的になってきます。
一方、石野を子飼いの部下として目をかけている部長(中村伸郎)は、甥(八色賢典)が梅谷と結婚したいというので話をしてほしいと石野に要請します。
部長の要請で断りにくいことや、そろそろ関係を清算する時期かもしれないと考えた石野は、梅谷に話をし、梅谷の承諾を得ます。
しかし、石野は梅谷の若い体に未練が残り、梅谷のアパートを訪ねます。
すると、梅谷は同じアパートの住人(小玉清、その後児玉清)の友人・松崎(江原達怡)と関係していました。
梅谷に言わせると、石野との関係に感づかれて脅されたといいます。
さらに、石野も口止め料を要求されます。
松崎は、早川(小池朝雄)という与太者に麻雀で負け、その金を払えずに困っていたのです。
石野は、それですべて終わりにできるのならと、3万円用意しますが、部屋に行ってみると、松崎は殺されていました。
松崎の血のりがついた石野は警察で取り調べられ、映画を観ていたとアリバイをいいますが、刑事の西村晃には、「あんたはいつも映画だ」と本気にされません。
そこで、石野はとうとう新大久保で杉山と会ったことを打ち明けます。
その後、早川は逮捕され、杉山は無罪となり、石野も釈放されますが、「自分はこれからどうなるのだろう」と石野がつぶやくところでエンデイングです。
天罰当たりクジに当たった男の話
保身のための嘘が、大事に発展してしまったという話です。
もちろん、おおもとは“不適切な関係”にあったわけで、ネットでは“因果応報”というレビューが大半なのはよくわかります。
ただ、世の中の不倫に励んでおられる方が、みなそういう“天罰”を受けるわけではないでしょう。
ですから、愛人がいけないとか、偽証がいけないといった、通り一遍の道徳がこの作品のテーマではないように思います。
運不運の不運は、誰にでも起こるとはいえないが、何らかの形で誰かに起こり得る、ということがいいたいのではないでしょうか。
不倫に限らず、失敗する人に対して、よく「もっとうまくやればよかった」という「ればたら」の後ろ向きな批評があるのですが、世の中は偶然と必然でできていますから、「必然」の部分をどんなに努力しても、うまくいく保証なんてないのです。
たとえば、事前の勉強をいくら頑張っても、試験当日交通事故にあったり病気になったりしたら合格できないように……。
人間は間違い得る生き物ですから、不倫でなくても、“いけないこと”に満ちている罪深い人生です。
そういう罪深い生き方の「バチあたりくじ」に当たった男の話なのだと私は思いました。

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