『日本一のゴマすり男』を「嫌な奴」に描いた理由は?

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『日本一のゴマすり男』(1965年)。『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジンVol.4』に収録されている。前年に『日本一のホラ吹き男』をヒットさせた植木等主演の映画である。タイトル通り、今回はホラではなくゴマすりである。ホラ吹きに比べてゴマすりは少しセコい感じもするが、現実感は高まったかもしれない。

日本一のゴマすり男

この映画のレビューブログを拝見していると、主人公の中等がゴマばかりするので、いつもの爽快さがなく「嫌な奴」に見えるという意見もあった。

が、私(自身はそれほど「嫌な奴」には見えなかったが)が思うに、まさにそこが本作の眼目ではないだろうかと思った。

他の作品は、サラリーマン社会の矛盾や虚しさなどについて、それ無責任にうっちゃる「爽快さ」によって表現してきたが、今回は主人公自身が「嫌な奴」になることでそれを描いているのではないだろうか。

いずれにしても、前作同様、最初は閑職から成功を収めて上り詰めるパターンである。さっそくストーリーを追っていこう。

あらすじ(ネタバレ御免)

今回の名前は中等(なかひとし)。後藤又自動車への採用通知を受け取るところからはじまる。

父親は、万年係長で会社を停年退職した中等一郎(中村是好)。会社に入ったらゴマをすることをいいきかせる。だが、等は「現代は実力の時代だよ」とその場では反駁した。

入社当日、張り切って始業時刻より早めに出社した等は、「すぐに車を見せて欲しい」と電話で客の中村(南利明)から呼び出され、売り物の車(スカイラーク)でゴルフ場まで送らさせる。

ナンバープレートをつけない車だったために、帰り道、警察に追いかけられるが、そのスピードが気に入ったと車を飼いたいという客も出るなど、入社初日は営業部が朝からテンヤワンヤ。結局、中等は遅刻扱いされてしまう。

中等は社長室で、小泉社長(進藤英太郎)に「君は補欠入社だ。同期だった君の父親から頼まれたからだ」と入社の真相を明かされる。その小泉は、親会社五島又商事の総帥・後藤又之助(東野英治郎)が来社すると急にペコペコする。

中等は、春山部長(有島一郎)から別当課長(犬塚弘)を通して山根係長(人見明)によって庶務課文書係に配属。まともな机も与えられず、ナイショクで編み物をしている権田岩子(宮田芳子)に顎で使われ封筒の宛名書きを命じられる。

中等は初日から、会社が「実力社会」以前に「階級社会」であることを知ることとなるのだ。

朝のてんやわんやは結果オーライで車が売れたが、営業担当者の細川眉子(浜美枝)が、お礼にと食事に誘われる。その席で、中等の心中を見透かされたように「私のように契約セールスマンにならない?」と誘われる。

さて、いつもの◯等なら、ここで会社と縁を切って独立採算のフリー営業マンとして成功する道を選びそうだが、この作品に限っては違った。

サラリーマンとして会社に残る道を選択するのだ。

そのかわり、彼は大きな価値観の転換を自らに課す。「会社は実力社会」という幻想を捨て、父親の言うとおり、徹底的にゴマをすることにした。

翌日、山根係長が海釣りが好きと聴くと早速日曜日に山根におとも。帰りは釣った魚として買ったキスを別当部長に届ける。

そこで別当課長がゴルフ好きと知った等は、今度はゴルフ好きを称してゴルフ場に連れだす。その上、そこで会った春山部長にも春山と懇意にしているクラブのママ・てるみ(久保菜穂子)を通して取り入り、春山家の引越しを手伝うことになった。

さらに、春山家の近所で目高常務(高田稔)の家が人手不足で大掃除に難渋していると知り、ただちに春山家から目高家にくらがえして大奮闘。目高夫人(京塚昌子)の信用を得た等は、目高家のパーティーに招かれる。

ゴマすりで常務のお気に入りまで来たものの、ここでいつものように挫折が待っている。

等はパーティーで後藤社長令嬢の鳩子(中尾ミエ)と知りあうが、飛行機狂の鳩子に飛行機操縦ができるとでまかせを言ったことで空中ランデブーをするハメに。

飛行機に乗ってから鳩子が免許がないことを知り、一時は墜落も覚悟したがなんとか着陸。等は嘘がばれて鳩子からは絶交されてしまった。

お得意の逆境からのV字回復は、太平洋を小型飛行機で単身横断してきたジョージ箱田(藤田まこと)のニュースにあった。

さっそく箱田を訪ねた等は「君に女性を会わせたい」と言って鳩子に引き合わせ鳩子と和解。2人は結婚を希望するが、後藤社長は猛反対。等は2人を五島又飛行機のセスナでアメリカに旅立たせた。その際、セスナのチラシも持たせることを忘れない。

後藤は、セスナが売れないことと鳩子から連絡が来ないことなどで激怒していたが、無事アメリカに着き、乗って来たセスナが大評判で買い手が殺到しているという電話が来る。

等は後藤の信用を得て五島又商事のアメリカ支店長担当重役となり、アメリカに派遣されることになった。

さて、眉子とは、「1年以内に出世したらキミは僕のものになる。できなかったら契約セールスマンになってキミの助手をつとめる」と約束していた。

この約束は等の勝ちとなったわけだが、居丈高に勝利宣言する姿に眉子は肘鉄を食らわす。

等はここでまた父親のことを思い出し、眉子にはひたすら謝罪と土下座を繰り返す。要するにここでもゴマすり作戦である。

そして眉子は機嫌を直し、2人は車で高速道路に出て車中のプロポーズ。高速道路で車を止めたことを咎める警官(谷啓)に気づかず熱いキスをしてまた車を走らせた。

リアリティ重視の試みか

ということで、今回は「無責任シリーズ」のハチャメチャさも、従来の「日本一シリーズ」の荒唐無稽さや破天荒さもおとなしめになっているので、ブログのレビューを拝見すると「つまらない」という意見もある。

おそらく、最後のキスシーンも、そうした地味な展開を補うという意味があったのかもしれない。

もっとも、キスしているシーンは、唇が重なるところが見えないし、角度的には植木等の左頬に浜美枝の唇があたっているようにみえるのだが、それでも浜美枝の左手が植木等の首をまき込むように抱きしめているのは艶かしくてドキドキする。

さすが、役者のキスシーンだなあと思う。

また、冒頭で述べたように、細かいところのリアリティが楽しい映画である。

権田岩子が「こっちいらっしゃい」というセリフは、トゲのある女性社員が新入社員に冷淡にあたるとこをよくあらわしていて、「うん、あるある」と思ってしまった。

机も与えられない惨めな思いも、経験がある人にとってみれば感情移入できるシーンだったのではないだろうか。

「まあこれは映画だから」と分別をつけつつも、自分も明日からできそうな前向きな気持にさせてくれる、というこのシリーズの醍醐味を、よりリアルに描いているということだと私は解釈した。

本作で植木等主演映画は5本目。シリーズ化されて4年目に入っている。いつまでも同じことはできないし、会社をバックグラウンドにして「日本一」になるには、バリバリ仕事をして出世するということに行き着く。

階級社会の中のゴマすりを描くというのは、そのひとつの試みだったのではないだろうか。

ちなみに、この次の「日本一」は、雇用のない営業マンとしてバリバリ仕事をして会社に利益をもたらす『日本一のゴリガン男』である。

東宝 昭和の爆笑喜劇DVDマガジン 2013年 6/4号 [分冊百科]

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  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/05/21
  • メディア: 雑誌

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