『一恵』を発表して芸能活動を終えた山口百恵

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『一恵』は、山口百恵32枚目のシングルである。「いちえ」と読む。といっても、これは通常のリリースと違う。なぜなら、1980年10月15日、ホリプロ20周年記念式典を最後に山口百恵は芸能界から引退した。しかし、このリリースは11月19日。つまり、引退して1ヶ月たってからのリリースということである。

通常、歌手は新曲をリリースしたら、様々なプロモーション活動を行う。それを最新の持ち歌として歌番組で歌ったりラジオ番組で曲が放送されたり、オリコンの順位を競ったりもする。

しかし、山口百恵は引退しているので、もちろんそれらは一切行わなかった。

つまり、主(あるじ)がいないまま歌だけが市場に登場したのである。極めて異例のことである。

『一恵』(1980.11.19)

一恵

一恵/想い出のストロベリーフィールズ
作詞者 横須賀恵
作曲・編曲者 A面:谷村新司(編曲:萩田光雄) B面:杉真理(編曲:萩田光雄)
CBS・ソニー

山口百恵は歌うだけでなく、自らが作詞者・横須賀恵として参加。谷村新司が作曲し、ジャケットは篠山紀信が撮影している。

10月5日の日本武道館で行われたファイナル・コンサートでも最後に歌われた。当然だが、涙を流しながらの絶唱。山口百恵は最後の歌を歌い終えると長々と頭を下げ、マイクをステージに置いた。

そして、深呼吸しながらそのマイクをしばし見つめ、舞台後方へ下がって改めて客席を見つめたところで幕が降りた。

これで彼女は21歳で引退するまで、7年半の間にシングル32枚、オリジナルアルバム22枚をリリース。引退後も多くのベスト盤が発売される伝説の歌手になった。

この歌のリリースの日は、三浦友和との結婚式当日である。結婚式前に引退していた山口百恵が、式当日にリリースした曲であるだけに、「集大成」「総集編」といった意味合いの強い歌である。

ジャケットの裏側には、『としごろ』に始まった「花の中三トリオ」時代からの山口百恵彼女の全31作のシングルジャケットが掲載され、「ありがとう」というメッセージとサインが書かれた色紙のコピーまで付けられている。

本当にこれで終わりなんです、という彼女の強い意志が表明されている。すでに本人が引退していたため露出が十分でなかったが、それでもオリコンで2位につけている。

挙式は赤坂の日本基督教団霊南坂教会、披露宴は東京プリンスホテル・鳳凰の間で行われた。招待客は1800人。仲人は宇津井健夫妻、友和側の主賓は東宝社長・松岡功、山口百恵側の主賓はCBSソニー会長・大賀典雄。父親との縁に恵まれなかった彼女は、父親代わりに所属事務所の社長・堀威夫を選んだ。

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