『ありがとう』は、森昌子49枚目のシングルリリースである。森昌子はここでいったん引退。森進一の妻になった。その後復帰しているが、少なくとも「花の中三トリオ」からスタートして青春歌謡、抒情歌、演歌と成長した森昌子は、とにかくここでいったん第一線から退いたのだ。『ありがとう』というタイトルでで締めくくるとは彼女らしいではないか。
この歌のタイトルは、後ろに「~雛ものがたり~」とついている。通常、後ろに付く文言はサブタイトルだが、この歌の場合には、「ありがとう」の方が引退前に出した4部作のサブタイトル的なもので、その4部作の楽曲名が『雛ものがたり』である(音楽工房)。
同じ「花の中三トリオ」の山口百恵も、引退についてはもちろん突然ではなく、長い時間をかけたプロモーションが行われているが、3人の中でもっともキャリアも長く、もっとも多くの歌をリリースした森昌子らしく、4部作で引退への方向を作っていったわけである。
『ありがとう』(1986.8.21)
ありがとう~雛ものがたり~/雁来紅
作詞者 石原信一
作曲・編曲者 篠原義彦(編曲:竜崎孝路)
キャニオン
歌詞は、わざとひな人形を長く飾り、母親から「お嫁に行く日が遠くなる」という小言を引き出す。そのとき、恋をしたことを告白するという歌詞だ。
二番では「ありがとう 倖せでした」「雛人形をもらってまいります」と、明らかに結婚を示す件がある。
リリースの日は森昌子引退の10日前。24日には歌舞伎座で引退公演も行った。
周囲には結婚による引退は反対もあったが、森昌子は頑として押しのけた。往々にして周囲が反対するとそうなるものである。
森昌子は演歌歌手としてピークにあったし、11歳年上の森進一との結婚は当然反対するだろうと森昌子は身構えるから、逆に周囲の反対は結婚を加速することになったのかもしれない。
思えば、中学生の時からプロ歌手として歌ってきたわけだから、ここでもう休みたいと彼女が思うことは責められないのではないだろうか。
もっとも、彼女を育て見つめてきたホリ・プロの総帥、堀威夫の落胆は大きかった。
「愛とはそれほど強いものなのか。そのうえ非常にも『仲人を』と森進一からの依頼である。正直なところ私にとっては“めでたくもありめでたくもなし”の心境で、『新婦側の親族席の片隅にでも出席させて貰おう』というのが本心だったのでお断りした」(『いつまでも青春』)
だが、森昌子本人からも依頼があり、結局は仲人を引き受けている。堀威夫がいかに森昌子を可愛がっていたかということがわかるエピソードである。
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