昭和映画・テレビドラマ懐古房

『美・サイレント』を歌い『曼珠沙華』で衝撃撮影を行った山口百恵

『美・サイレント』は、山口百恵の25枚目のリリースである。遡ること3ヶ月前には16枚目のスタジオ・アルバム『曼珠沙華』をリリースしているが、そこでは篠山紀信を前にトップレスになった彼女を酒井政利が告白している。歌にしても映画にしてもドラマにしても、実は未完成だった彼女の最大のハイライトだったかもしれない。

その昔、青江三奈が『伊勢佐木町ブルース』を歌った時、イントロの部分で「アン、アン」と3回シャウトするが、4回目になぜか沈黙するのでどうしてだろうと子供心に思ったものだが、大人になってから何となくわかった(笑)

山口百恵25枚目になるこの歌は、「あなたの……が欲しいんです」と声に出さない歌詞があり、それが何かが話題を呼んだ。もっとも、この歌は青江美奈のそれとはケースが違い、情熱や真心といった観念的な言葉が入ることが予想できた。

ただ、そうした「謎かけ」の歌詞は、「花の中三トリオ」時代の「青い性典」路線ですでに行っているので、山口百恵にとってはそれほどめずらしいことではないかもしれない。

『美・サイレント』(1979.03.01)


美・サイレント/曼珠沙華
作詞者 阿木耀子
作曲・編曲者 宇崎竜童(編曲:萩田光雄)
CBS・ソニー

遡ること3ヶ月前、山口百恵は16枚目のスタジオ・アルバム『曼珠沙華』をリリースしている。ジャケット写真は篠山紀信が撮影したバストトップだった。

普通なら、そういう場合は肩ひものないブラジャーか、胸にはタオルでも巻いて撮影しているのではないかと想像するが、篠山紀信は山口百恵を本当に上半身裸にして撮影した。

「『篠山さん、うまくいってますか』/何気なくカーテンを開け、私は内部を覗き込んだ。そこには、一瞬、息のつまるような衝撃的な光景があった。/カメラの前で、山口百恵はなんと上半身すっ裸になってシャッター音を浴びていたのだ。/私たちが必要としていたのはアルバムのジャケットに使う、二十歳になった彼女の表情である。それなのに乳房をあらわにした山口百恵は、篠山さんの注文に臆することなく没頭し挑んでいた」(『神話を築いたスターの素顔』)。

酒井政利は、そんな彼女に「魔性」を見たという。

引退したことで美空ひばりのようなスーパースターにはならなかったが、清潔で凛々しい山口百恵のままで引退できたことはよかったのではないだろうか。

引退後も、マスコミが隠し撮りしたり、カムバック論がメディアにのぼったりするが、たしかに「魔性」があり、かつ歌手としても大きな賞をとれず女優としても自分の世界を作れなかった彼女には、カムバックするかもしれない期待もあったのかもしれない。

しかし、それが実現しなかったのは、一方で普通の家庭に憧れた彼女の生い立ちがあったからだろう。

ほしのもとというのが、やはり人生ではモノをいうのだろうか、などと考えさせられる。

山口百恵 赤と青とイミテイション・ゴールドと (朝日文庫)

  • 作者: 中川 右介
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2012/05/08
  • メディア: 文庫

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