『いい日旅立ち』は、山口百恵24枚目のシングルリリースである。この歌は国鉄の「いい日旅立ち」キャンペーンソングになった。B面の『スキャンダル(愛の日々)』は、山口百恵が“金9”からも“赤い”からも独り立ちした主演TBS系ドラマ『人はそれをスキャンダルという』の主題歌である。その意味で、山口百恵にとっては思い入れの強いリリースかもしれない。
「国鉄のキャンペーンソング『遠くへ行きたい』は、ひとつの時代を象徴するような国民ソングになっていた。だから、それに負けない国民ソングを作らなければならない。となると、歌手は山口百恵しかいない! 私は即座にそう思った」(『神話を築いたスターの素顔』で酒井政利)。
これまで見てきたように、山口百恵は阿木耀子作詞・宇崎竜堂作曲による歌を続けざまにリリースしていた。
酒井政利は、ここに日本歌唱風の『いい日旅立ち』を挟むことで、彼女が国民的歌手になれると目論んだという。
この戦略は、現在嵐なども行っている。歌のヒットだけに満足せずに、観光大使やNHK紅白歌合戦の司会など、必ずしもギャラが高い仕事でなくても国民的存在を認知されるような仕事にはメリットがあるのだ。
後の『しなやかに歌って』にもそうした目論見が感じられる。『いい日…』には、国鉄の他に「日立」と「日本旅行」がスポンサーとして絡んでいた。だから、タイトルにはそれぞれの文字が入っている。
この歌は、たんなる国民的存在というイメージ作りだけでなく、歌そのものがヒットした。こんにち、彼女の持ち歌の中で売り上げトップの名曲である。
『いい日旅立ち』(1978.11.21)
いい日旅立ち/スキャンダル(愛の日々)
作詞者 A面:谷村新司 B面:来生えつこ
作曲・編曲者 A面:谷村新司(編曲:川口真)B面:川口真(編曲も)
CBS・ソニー
B面は、山口百恵が宇津井健や三浦友和らとも共演しないだけでなく、“金9”の「赤い」シリーズそのものから離れた、まさに山口百恵独り立ちの作品『人はそれをスキャンダルという』の主題歌だった。
放送は火曜21時。温かい家庭で何不自由なく暮らしていた主人公の父親(船越英二)が急死。それを機会に、父親には籍を入れていない別の家庭があり、同い年の妹(亜湖)もいたことがわかる。相手役は篠田三郎である。
一説には因果な設定を嫌がって「赤い」シリーズを降りたともいわれるのに、せっかく枠や共演者を変えても、またしても彼女の出自を思い起こして感情移入させる「非嫡子」が出てくる設定。視聴者にも不評だった。
「赤い」シリーズのような盛り上がりはなく、ドラマは予定より少し早めに終了している。
こういってはなんだが、この時点では、やはりモモトモや宇津井健との父娘や、金9、赤いシリーズといった神輿がないと、残念ながら山口百恵の一枚看板だけでは厳しかったのかもしれない。その意味で、打ち切らずに辛抱して彼女のキャラクターや路線を固めて何本かドラマを作れば、また違った展開もあったかもしれない。
打ち切りというのは、株式取引でいう「損切り」。それ以上の痛みがない代わりに、そこからは何も得られない。
隔週刊 山口百恵「赤いシリーズ」DVDマガジン 2014年 3/11号 [分冊百科]
- 作者:
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/02/25
- メディア: 雑誌