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『初恋草紙』は路線選択の実験だったか山口百恵

『初恋草紙』は、山口百恵16枚目のシングルである。タイトルだけを見ると、同じ「花の中三トリオ」の森昌子の歌かと思ってしまうが、阿木耀子、宇崎竜童のコンビが楽曲を提供している。『横須賀ストーリー』で、そのコンビが楽曲を提供したが、いよいよここからが彼女の後半の路線である“横須賀ツッパリ娘”時代にはいっていくのである。

ただ、記念すべき新路線のはじまりとしては、オリコンで4位まで進めたものの、セールスは24万枚で止まってしまった。

本当のデビュー曲ならそれでいいかもしれないが、すでに第一線で活躍している彼女にとって、この数字は不本意だったといっていい。

山口百恵は、デビュー時も「花の中三トリオ」の森昌子や桜田淳子らのような好スタートを切れなかった。それはどうしてだろうか。

デビューの時は、ありふれた中学生アイドルの歌が振るわず、青い性典路線への舵切りを行った。

今回は、阿木耀子、宇崎竜童のコンビに求められた、劇的なアップテンポの歌ではなく、地味なところが違和感を抱かれたのかもしれない。それとも、まだファンの方が「青い性典」路線からの脱却に慣れていなかったのだろうか。

文芸詩的な歌詞は、山口百恵に対してさらなる歌手としてのフィールドの拡大を実験したのかもしれないが、この後の『いい日旅立ち』や『しなやかに歌って』なども含めて、“横須賀ツッパリ路線”でない作品はセールス的には比較的芳しくない。

つまり、山口百恵は、千家和也時代にしろ、阿木耀子、宇崎竜童のコンビにしろ、ありきたりな歌ではなく、より刺激的なものが求められたのである。

この2ヶ月後には次の『夢先案内人』がリリースされた。

『初恋草紙』(1977.01.21)


初恋草紙/モノトーンの肖像画
作詞者 阿木燿子
作曲・編曲者 A面:宇崎竜童(編曲:萩田光雄)B面:宇崎竜童(編曲:矢野立美) 
CBS・ソニー

B面編曲を担当した矢野立美は、石野真子の『彼が初恋』もアレンジしている。小泉今日子が『スター誕生!』に出場した時、決戦大会まで歌ったのは有名な話だ。

そして小泉今日子のデビュー後は、林寛子の『素敵なラブリーボーイ』に独自のアレンジを施し、林版を売り上げで完全に上回った。『常夏娘』でもアレンジを担当して同曲はオリコン1位に輝いている。

77年3月27日には、日本武道館の卒業コンサート「三人娘 涙の卒業式」が行われた。収録した東宝映画『昌子・淳子・百恵 涙の卒業式 出発(たびだち)』は、CSのスカチャン180/スカチャンHD190などで放送された。

森昌子は水色の、桜田淳子は黄色の、山口百恵は赤のワンピースを着て『初恋時代』を歌っている。

夢を食った男たち―「スター誕生」と歌謡曲黄金の70年代 (文春文庫)

  • 作者: 阿久 悠
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/12/06
  • メディア: 文庫

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