『あなたを待って三年三月』は、森昌子14枚目のシングルである。この75年は森昌子にとって、抒情詩ソングから演歌への過渡期というイメージがあるが、けだしこの歌はタイトルからして演歌である。しかし、人を思う気持ちの本質がそこには表現されていると思われる。
まずA面の『あなたを待って三年三月』は、指切りも口づけも口約束もない、今風に言えばコクッたこともない人を三年三月待つという歌である。
何ら約束手形もない。もっとも、あっても人の心の移ろいは止められるわけではない。その意味では、心のつながりが本質である、ということをこの歌は表現しているのかもしれない。
とくに現代の若者には理解されにくいことかもしれないが、いないだろうなあ、という現実的見定めがあると、せめて歌の中でそんな女性の存在を楽しみたい、という男性心理があるものだ。それを上手にくすぐった歌といえる。
B面の『ふたりの青空』は、好きな人が出来て、とうとう告白した歌である。
好きな人を待つ歌、そして好きな人が出来た歌、というシチュエーションは森昌子の歌の大きな柱であり、たとえば次のリリース、『あの人の船行っちゃった』も、この設定に基づいた歌の組み合わせである。
素朴な設定だが、それでも聴く者を飽きさせないのが森昌子の真骨頂である。
『あなたを待って三年三月』(1975.9.1)
あなたを待って三年三月/ふたりの青空
作詞者 阿久悠
作曲・編曲者 新井利昌(編曲:小杉仁三)
ミノルフォン
「森昌子の歌を聞いてると、キリがないね。知ってる歌も、知らない歌も、他人の歌も全く関係ない、全部森昌子の歌になってる。終わりがなくて、困っちゃうな。ほんとに上手い!」と、森昌子の歌唱力に対して嬉しい困惑の書き込みがYOUTUBEにある。
ファンのほとんどがそう思っているのではないだろうか。
この歌は、森昌子が3回目の出場となる『第26回紅白歌合戦』で歌われた。カボチャのように大きく広がった白のイブニングドレスを着た森昌子がまぶしかった。
編曲の小杉仁三は、『三百六十五歩のマーチ』やお化けドラマ番組『ありがとう』の主題歌など水前寺清子の歌が印象深い。