『北風の朝』は、森昌子の11枚目のリリースである。北風といえば冬。12月1日にでただけあって、タイトル通り寒い日の歌である。しかし、想う人が近くにいたら寒くないといっているのである。老若男女あらゆる年齢層から愛されるキャラクターである彼女らしい女心の抒情詩ソングである。
近年の日本の気候は、まるで秋が消えてしまったようだ。猛暑、残暑が本来の秋の時期まで続いたと思ったら、あっというまに息が白くかじかむような気温に下がっている。朝などは、「今日も寒くなりそうですね」が挨拶になっている。そんな寒い朝は、自然とこの曲を口遊むと心身ともに前向きになれる。
歌の中身は、例によって年上の男性に想いを寄せているものだ。
「おはよう 寒いね」「風邪ひくなよ」と向こうから気軽に声をかけてくれ、肩をそっと抱いてくれる相手の男性。
「あなた」が近くにいてくれるなら、「私」はちっとも寒くないと森昌子は歌っている。何ともおくゆかしい女性である。
といっても、この時代、こんな存在は稀である、というほどではない。
時代は70年代。文通などをきっかけに大学生と出会ったら、森昌子でなくてもこんな感じの女子高生は少なくなかったかもしれない。
出会い系で、“そういう目的”から手っ取り早く知り合う現代の関係とは、根本的に価値観が異なるプロセス重視の清い交際なのである。
初恋が中学に入った時の先輩だったという森昌子。11歳年上の森進一と結婚した時も、「お兄さんのような人と結婚したかったから」という理由を述べた。
ことほどさように、年上の男性にストライクゾーンを設定する森昌子にとって、『北風の朝』は自分の思い描く世界そのものだったのではないだろうか。
『北風の朝』(1974.12.1)
北風の朝/砂時計
作詞者 阿久悠
作曲・編曲者新井利昌(編曲:斉藤恒夫)
ミノルフォン
ネットでは、舞台パンフレット『「おめでとう 森昌子ショウ・北風の朝」(昭和50年発行)浅草国際劇場』と、LP「おめでとう 森昌子ショー 北風の朝」昭和50年浅草国際劇場実況録音盤がレビューなどで取り沙汰されている。
筆者は、正直言うとこのショウを観ていない。だから、どうして「おめでとう」なのかわからないが、ショウのタイトルに入るぐらいだから、この歌は森昌子にとって思い出深い歌の一つなのだろうと想う。
B面は、例のごとく待つ女だ。タイトルの砂時計が、待つことの辛さを表現するキーワードになっている。
作曲の新井利昌は、元カントリー&ウエスタンバンドであった堀威夫とスイング・ウエストのメンバー。その関係か、ホリ・プロ所属の森昌子に曲を提供している。