『日本一のホラ吹き男』。1964年に作られた東宝クレージー映画としては7本目だが、植木等主演の『日本一シリーズ』としては2本目。『無責任シリーズ』から数えると4本目になる。文字通り自分の出世についてホラを吹きながら重役に出世する話だ。
しかし、正体不明の無責任が利己主義的にホラを吹く荒唐無稽な話ではなく、むしろこの時代のモーレツ社員の先頭を行くように、自分自身に目標と暗示を与えるようにホラを吹いて忠君愛社的に突き進んでいく。
無責任男からの路線転換ともいわれているが、会社という組織の中で自己実現するには、こうした展開は必然なのかもしれない。
あらすじ(ネタバレ御免)
今回の主人公の名前は初等(はじめひとし)。西北大学に法学部卒業後、経済学部に学士入学で居座る学生である。理由は、三段跳びの代表選手がかかっているからだ。
だが、頑張って猛トレーニングに励んだことが裏目に出たか、練習中にアキレス腱切断の重傷を負って入院してしまう。
オリンピック強化選手からも外され失意のどん底にある初等は、実家の土地を掘った際に出てきた瓶の中に入っていた祖先の伝記を読む。そこには、大ボラ吹いても必ず実現して、浪人から一万石の大名に三段出世した話が書いてあった。
気を取り直した初等は、大学の就職部に一番就職が難しい日本一の大会社が「増益電機」だと聞き入社を決心。
入試試験では「僕が入社した以上は、売上倍増どころか5倍10倍にもして世界一流の大会社にする」と大ボラを吹き、ミス増益電機の南部可那子(浜美枝)にモーションもかけるが、世の中は甘くなく就職試験には失敗した。
しかし、採用された同級生の宮本(安田伸)に、自分も必ず入社すると大ボラを吹いた初等は、入社式の日、臨時守衛として増益電機で宮本と再会。「大学まで入って守衛か」と宮本を呆れさせる。
初等は社長運転手(桜井センリ)から、社長・増田益左衛門(曽我廼家明蝶)が取り巻きを従えないで一人ゴルフをすることを聞き、社長の早朝ゴルフにキャディーとして強引に同行。お世辞を言ったりレクチャーしたりで増田益左衛門の気持ちを良くして、正社員登用を実現させる。
しかし、最初に配属されたのは労働組合の幹部・古井(三井弘次)などが仕事をする資料整理。ここで初等は「こんな仕事はひと月で卒業して係長に昇進」と大ボラを吹くと、残業手当なしで会社に泊まりこんで睡眠時間3時間で仕事を処理する。
残業手当をとらない初等は労働組合においておけないと古井(三井弘次)の逆鱗に触れ除名になったが、社長の口利きで入社し、何より仕事熱心であるために解雇できず、総務部長・大野(山茶花究)はやむを得ず係長の辞令を出す。
しかし、今度もまた閑職だった。宣伝課に配属になるものの課長の本多(人見明)からは、「うちは係長3人もいるし予算もないから君に仕事はない」と言い渡される。
しかし、初等は「では、僕は好きに仕事していいんですね」「3ヶ月で課長になる」とまたもや大ボラ。工場研究室主任(清水元)を「冷暖機器でも作ってみろ」と挑発して大げんかするが、ひょうたんからコマで、技師の一人井川(谷啓)から、「実はそれは作ったが採算等で反対意見があってお蔵入りになった」と聞く。
初等は強引に「冷暖電球」のテレビCMを制作。増益電機には問い合わせが殺到し、結局増益電機は冷暖電球の量産にふみきった。
ここで初等はいったん退社をほのめかす。慌てた社長・増田益左衛門は彼を秘書課長に抜擢した。
ここまで来て、モーションを掛けられ最初はコバカにしていた南部可那子は初等を信用して結婚する気になったが、初等はこちらもいったんストップをかける。「あと2カ月で部長になるからそしたら結婚しよう」とまたも大ボラをふいたのだ。
初等はナイロニア国から発電機を買うという話を聞くと、商売敵の丸々電機西条社長(江川宇礼雄)の愛人・清水花江(草笛光子)をうまく利用して落札に成功した。
だが、その金額が予定よりも高い金額だったので増田益左衛門は激怒。「損して得取れと言うじゃありませんか」と反論する初等を解雇する。しかし、初等は「社長はぼくたちの仲人でしょう」とまったく動揺しない。
増田益左衛門は「誰がクビにした奴の仲人などするか」と怒っていたが、結婚式当日、増田益左衛門は遅れてやってきた。「すまんかった。発電機を好意的な価格にしてくれたからとナイロニア国が我が社の製品を使ってくれることになった」と、初等の言うとおり「損して得取れ」の展開になったことを告げ、彼を部長にしたのだ。
これですべて初等の大ボラ通りになったが、最後に一つだけ思ったとおりにならないことがあった。結婚後、可那子の尻に敷かれてしまったのだった。
底抜けの明るさだけはシリーズ通しで
仕事で成功したものの、女性だけはうまくいかない、というのはこのシリーズ、他の作品でも出てくる展開である。
『日本一の色男』では、病気の恋人のためにバリバリ働いてお金を貯めるが、恋人は執刀医と結ばれてしまうし、『日本一のゴリガン男』などは、やはり浜美枝との結婚生活で尻にしかれ、「売るのは得意だったが買うのはだめだったんだ」などと自己批判している。
すべてがうまくいくハッピーエンドよりも、一つずっこけたほうが物語として収まりもいいし、仕事がうまくいっても女性はうまくいかない、というのは東宝の社長シリーズでもお約束のパターンである。
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その中の「ここ一番の決めゼリフ」に選ばれたのは、「責任の持てないホラはあんまり吹きたくはありませんからね」というもの。「無責任男」から有言実行型への転換を表現している。
しかし、底抜けの明るさだけは転換していない。だから観ると元気が出てくるのだ。