昭和映画・テレビドラマ懐古房

『下町の青い空』を歌えば心も軽やかに

『下町の青い空』がリリースされたのは桜前線が通りすぎた4月20日(1974年)。森昌子8枚目のリリースである。春から初夏へ季節が動く、人間が最も活動しやすく心も軽やかになれる時期かもしれない。そこで森昌子のこの歌である。これまた時代を超えて口ずさみたくなるいい歌なのだ。歌って心軽やかになれる清々しい抒情詩ソングである。

「花の中三トリオ」から「高一トリオ」に“進級”した森昌子。今回は学園ものから純然たる抒情詩ソングを歌っている。

ジャケットには、当時の東京・中央区佃島あたりを連想させる木造瓦屋根の住宅をバックに森昌子が立っている。

「川が行く 川が行く」という歌詞は、隅田川やかちどき橋、佃大橋などを連想する。

「下町」というコンセプトは、森昌子がリリース直前まで出演していたドラマ『てんつくてん』が佃島を舞台にしていたからではないか、などと推理してしまうが定かではない。

もしくは、『てんつくてん』に出演していたからこそ、そのときに「今度は下町を歌う歌にしたらどうだろうか」という企画ができたのかもしれない。

歌は、山口百恵が「青い性」路線で歌っている74年現在でも、ちょっと古典的な気がするかもしれない。

何しろ「下町の青い空」と歌っているが、すでに排気ガスが問題になっていた時代だから、下町に空の青さを強調するのは現実的ではないという見方もできるからだ。

が、抒情詩ソングというのは「お約束」というか、様式美的にそのような描写があるのだ。

そして、山の手ではなく下町だからこそ似合う歌なのかもしれない。

『下町の青い空』(1974.4.20)

下町の青い空/浅草の白い鳩
森昌子
作詞者:横井弘
作曲・編曲者:遠藤実(編曲:斉藤恒夫)
ミノルフォン

B面は「浅草」という地名が入っており、こちらも下町ソングである。浅草といえば『男はつらいよ』だが、都会的なアイドルの桜田淳子は出演歴があるものの、意外にも森昌子にはない。やはり森昌子は演じるというより歌う人なのである。

作詞はいつもの阿久悠ではなく、大ベテラン・横井弘である。日本放送協会のラジオ歌謡で放送された伊藤久男の『あざみの歌』に始まり、三橋美智也、春日八郎、大津美子、仲宗根美樹、ザ・ピーナッツ、倍賞千恵子、中村晃子、バーブ佐竹、千昌夫ら50年代~60年代のヒット曲を世に送り出してきた。

とくに下町ものでは、倍賞千恵子の『下町の太陽』(62年11月)が有名である。要するに「下町の歌」のオーソリティだったわけだ。

森昌子は歌う路線の関係で、作詞なら藤田まさと、作曲なら遠藤実など、歌謡史上に残る大御所とも仕事をしている。これは桜田淳子や山口百恵にはない貴重な経験である。

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