昭和映画・テレビドラマ懐古房

『サラリーマン忠臣蔵』“変則”社長シリーズはサラリーマン映画100本記念

サラリーマン忠臣蔵。東宝のサラリーマン映画100本記念として、同シリーズ1年9ヶ月ぶりの作品である。主演はもちろん森繁久彌。脚本は、社長シリーズの前作を担当し、後に植木等の「日本一」シリーズやクレージーキャッツなどの喜劇を手がけた笠原良三、監督はこれまた後に『香港クレージー作戦』などを手がけることになる杉江敏男。さらに撮影は「お姐ちゃんはツイてるぜ」の完倉泰一である。

サラリーマンシリーズ。東宝の興行を支えた東宝喜劇黄金時代の看板シリーズである。あまりに偉大すぎて語りたいことは尽きないのだが、今回は記念作品ということで、いつもと配役やポジションが異なっている。

そして、タイトル通り、今回の下敷きはいつもの源氏鶏太作『三等重役』ではなく『仮名手本忠臣蔵』。役名だけでなくビジネスシーンにも見事に翻案されている。

さて、今回の舞台は、赤穂産業と丸菱コンツェルンである。大石内蔵助良雄にあたる森繁久彌は赤穂産業の専務で「大石良雄」。そのまんまである。ちなみに長男は夏木陽介が演じる「大石力」。四十七士は「大石主税」だから字が違うだけだ。

初代社長は社長シリーズの証である河村黎吉が額縁で“出演”。二代目社長として池部良演じる「浅野卓巳」。丸菱コンツェルンの総帥で、浅野卓巳の後の赤穂産業社長におさまったのが東野英治郎演じる「吉良剛之介」。

大石良雄と行動を共にせず、不忠臣に走ったといわれる大野九郎兵衛知は、「大野久兵衛」常務の有島一郎。本作で大野久兵衛は吉良剛之介新社長側についた。

小野寺十内秀和にあたるのは加東大介の「小野寺十三郎」営業部長。吉田忠左衛門兼亮は「吉田課長」の宮田洋容。

堀部安兵衛の女版、堀部安子が中島そのみ、四十七士が集まった「そば志ぐれ」ならぬそばや「山科」の親爺が柳家金語楼……。

などなど、翻案の証明となる役名を紹介するだけで字数が増えてしまうので、このへんでストーリーを追っていこう。

圧巻は四十七士の剣舞

丸菱コンツェルンが、アメリカ経済使節団を招く接待委員会の会議から騒動は始まる。

委員長の吉良剛之介は高い金を出して贈り物として新田義貞の兜を買うが、同委員の桃井和雄(三船敏郎)に偽物と見破られてしまう。

その上、夫人を伴わないパーティーを企画したり芸者を呼んだりする吉良の提案を、桃井はことごとく否定。2人は激しく対立する。

桃井役の三船敏郎が若い。

会議で吉良に侮辱された桃井は、アメリカ経済使節団歓迎レセプションで吉良に仕返しをすると憤るが、桃井の側近である角川本蔵(志村喬)は先手を打ち、吉良の秘書・伴内耕一(山茶花究)を通して吉良にお詫びと贈り物をして、うまくはからうように求める。

三船敏郎と志村喬のコンビ。黒澤明の作品以来である。なんかもう、このへんで懐かしさで瞬きが多くなりがちだ。

それにしても、山茶花究。この人の敵役以外の仕事を観たことがない(笑)

桃井に対して怒りの矛を収めた吉良は、それを今度は浅野に向ける。なんとなれば、浅野は吉良が狙っている芸者加代次(新珠三千代)と結婚してもおかしくない相思相愛の関係であり、そのことを吉良が知ってしまったからだ。

アメリカ経済使節団歓迎レセプションの当日。吉良は松の廊下に似せた赤い絨毯の通路で、浅野を父親や加代次がらみで罵倒。浅野は吉良を殴ってしまう。

浅野は委員会から謹慎を命じられてそのまま会場を後にするが、いったん会社に戻った後、改めて車を出してスピード超過の運転後、事故死してしまう。

そして、赤穂産業の新社長として乗り込んできたのが吉良である。吉良は大石人脈の中間管理職をみな左遷。彼らは大石に決起を求めるが、この時点でまだ大石は動かなかった。

しかし、吉良はそれだけでなく、大野に縁談を持ちかけ、大石の息子と大野の娘(団令子)の恋仲を妨害したり、先代社長時代からの懸案だったフランスアーマン商会との契約締結を独断で取りやめたりしたことで、大石は腹をきめた。

アーマン商会とは大石個人の契約に切り替えてもらい、クライマックスは吉良新社長歓迎会の席。

大石は吉良に赤穂浪士四十七士の剣舞として刀を突きつけた上で、小野寺十三郎営業部長(加東大介)、吉田課長(宮田洋容)、原課長(大友伸)、寺岡平太郎専務運転手(小林桂樹)らの辞表を取りまとめて吉良の膳の上に叩きつけ、「新会社を設立します」と啖呵を切って彼らプラス芸者加代次と宴会の部屋を出て行く姿が勇ましい。

胸を張り、意気揚々と早足で去っていく。女性の加代次はもう半分駆け足になっている。

社長シリーズは正編・続編構成で作られているが、もちろんこれは続編がある。続編に期待を持てる終わり方である。

出演者は、多くが鬼籍に入っている。それだけに懐かしい。藤木悠や児玉清が若い。

50年以上も前なのに、何度観ても飽きない。

この作品は1960年12月25日公開。そういえば「お正月映画」は、前年暮れに公開するのだが、年末の慌ただしい時に見てしまうのが楽しみだった。

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  • 出版社/メーカー: 講談社
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