『青い果実』は、山口百恵のセカンドリリースである。いわゆる「青い性」と言われた山口百恵歌手人生前半の路線がここからスタートする。11月19日には、33回目の結婚記念日としてまた芸能マスコミに取り沙汰された。歌手生活絶頂の中で「寿引退」したために、今も伝説の人として語られ続けているのだ。
『女性自身』(11月19日号)には、山口百恵として活躍した三浦百恵さんの近況をうかがえる写真 も掲載された。盗撮ではなく、普通のスナップ写真である。
三浦百恵さんの許諾があったかどうかはともかくとして、そこにうつっている姿はたしかに現在の本人なのだろう。
桜田淳子のふっくらした姿が話題になったが、それでもまだ桜田淳子本人であることは確認できた。
しかし、三浦百恵さんの方はそうだという前提で見なければ気が付かないのではないだろうか。
おそらく、今後も復帰はしないのだろうが、それだけにこうした記事や写真が引退して33年たっても掲載される。
当時の『スター誕生!』やホリプロの関係者も、そして何より本人もここまで影響力を残す存在になるとは考えなかったのではないか。
デビュー曲の『としごろ』が、少なくとも「花の中三トリオ」「スタ誕三人娘」である森昌子や桜田淳子のデビュー曲ほどのヒットをうまず、歌唱力やルックスでも際立ったものがない彼女をどうセールスしていくかはホリプロにとって大きな課題だった。
そこで、2曲目は「あなたが望むなら、私何をされてもいいわ」から始まる歌詞の歌。森昌子とも桜田淳子とも明らかに違う、今風に言えばオンリー・ワンの路線を文見だした。
『青い果実』(1973.9.1)
青い果実/おかしな恋人
山口百恵
作詞者:千家和也
作曲・編曲者:都倉俊一(編曲:馬飼野康二)
CBS・ソニー
「青い性」といわれた路線を変えたこの歌は、デビュー曲とは違い一定の支持を得てオリコンベストテン入り(9位)をはたすことができた。
大ヒットというわけではないが、やっと山口百恵ならではの路線を定めて芸能界にご挨拶をできた、といった趣である。
もっとも、山口百恵自身は最初、「皆と違うように見られたら」と、この歌詞に対して恐怖心や防衛本能がはたらいたという。
「十四歳も近い頃、事務所で『今度の曲だよ』と手渡された白い紙。期待と不安の入り混じった複雑な気持ちで、書かれた文字を追っていくうちに、私の心は打ちひしがれてしまった。当時は歌謡界全体がいわゆる『かわいこちゃんブーム』と称されていた頃で、流行っている歌といえば『天使』や『夢』や『花』がテーマになっているものばかりで、活躍している同世代の女性歌手たちは一様にミニスカートの服を着て、細く形のよい足で軽やかなステップを踏みながら満面に笑みを浮かべて歌っていた。そんな中で、このような詩を私が歌ったら……」(『蒼い時』)。
だが、メロディーにのせて歌ったとたん、ためらいは消えその歌が「とても好きになっていた」という。
世の大人たちが眉をひそめる歌をあえて歌うことで、「皆と違うように見られ」ることに腹をくくれ、それが「心の奥底に深く抑圧されたもの」が解き放たれたような気持ちになったのではないだろうか。
もしここで、「やっぱり嫌だ」と山口百恵が思ったら、のちの成功はなかった。
中くらいのヒットだったが、歌手人生を考えると大きな転機だったといえるだろう。