『社長道中記』(1961年、東宝)は、南紀白浜を舞台に、森繁久彌社長の缶詰会社が大阪の商社と念願の取引にこぎつけた話である。美人の座る座席を巡って争ったり、例によって社長はまたしてもマダムズとの浮気を為損なったりと安定の一作である。
改めて社長シリーズとはなんだ
『社長道中記』(1961年、東宝)は、1956年~1970年までに33本製作された、タイトル通り社長と、重役、秘書、宴会部長(役職は営業部長)などが登場するシリーズの10作目。
本ブログでは、
『サラリーマン忠臣蔵』(1960年)
『続・サラリーマン忠臣蔵』(1961年)
『続・社長紳士録』(1964年)
『社長行状記』(1966年)
『社長えんま帖』(1969年)
などを過去にご紹介してきた。
本作は源氏鶏太の『随行さん』が原作で、笠原良三が脚本を執筆している。
「シリーズの中でも良くできた1作」(『東宝昭和の爆笑喜劇DVDマガジンVol.25』で泉麻人氏)と評されている。
見どころ
1960年代の東宝が上映する作品には、4つの人気シリーズがあった。
その中の一つが、本作を含む「社長シリーズ」といわれている作品である。
高度経済成長時代らしく、森繁久彌社長の会社が大きな取引をまとめるというビジネスを前面に出したストーリーで、かつ東宝らしいちょっとハイソで明るく楽しい展開が特徴である。
社長……森繁久彌
重役……加東大介
秘書(回を重ねて最後は社長まで出世)……小林桂樹
宴会部長……三木のり平
そして、途中からは、取引先の怪しいバイヤーとして、フランキー堺が出演している。
森繁久彌社長は、仕事をしながらも、途中で浮気を試みるが、いつも成功しない。
その相手を、マニアの間では「マダムズ」と呼んでいるが、草笛光子、淡路恵子、新珠三千代、池内淳子、団令子などが毎回2人ずつ、代わる代わる出演している。
ストーリーは、森繁久彌社長の缶詰会社が、大阪の商社(三橋達也社長)と念願の取引にこぎつけたという話。
新幹線がない時代の「こだま」や、当時はなかなか行けなかった国内随一の観光地・南紀白浜などが登場し、ロケーションもお宝である。
邦画の喜劇についてはコバカにする人がいるが、ありがちだな、とか、やらないかもしれないけどやりたいとは思うだろうなというような、他愛ないことがツボにはまる、スモールコメディの良さを知ってほしいなと思う。
たとえばこんな感じで……
『水戸黄門』に通じるマンネリズム
大阪出張で、「こだま」(新幹線ができる前の特急)の2等車(今のグリーン車)に乗った森繁久彌社長と小林桂樹随行社員。
小林桂樹社員の隣には、妙齢の美女(飛鳥みさ子)が座った。
観客はここで、森繁久彌社長が黙っていないだろうと予想する。
案の定、森繁久彌社長は強引に席を変えてもらい、美女の隣りに座る。
ところが、美女は祖母(飯田蝶子)の代わりに座っていただけで、森繁久彌社長は落胆。
席を変えられた小林桂樹社員の隣には、これまた美しい女性(新珠三千代)が。
すると、またいろいろ理屈をつけて、小林桂樹社員に席を変わってもらう森繁久彌社長。
大の男が、隣席の女性を理由に、ぐるぐる席を交代する光景がなんとも滑稽である。
さらに、森繁久彌社長は助平心を起こして、自分と女性のためにジュースを買いに行きますが、その間に、小林桂樹社員と新珠三千代が席を交代したため、森繁久彌社長が戻って来たら、小林桂樹社員にジュースも飲まれてしまったというオチ。
この間のテンポの良さと、席を替えさせる森繁久彌社長の屁理屈がクスっと笑える。
今回のマダムズは、新珠三千代と淡路恵子。
新珠三千代というと、悲劇のヒロイン『細うで繁盛記』を挙げる人が多いが、このシリーズでは毎回のようにコミカルな役柄を演じている。
このシリーズは、森繁久彌社長が浮気しそうでできない展開が「お約束」なのですが、その意味では観客も、浮気までは行かないんだろうなと最初から結末はわかっていて、森繁久彌社長がどう自滅するかを楽しんでいるわけだ。
もうひとつ、個人的に面白かったのは、取引したい商社の社長(三橋達也)を接待したとき、森繁久彌社長が「お流れをちょうだいしたいと思います」というと、三橋達也社長は「ボクはそういう不衛生なことはしない」と断ったこと。
私も、他者と鍋をつついたり同一の器で飲食したり、「ちょっと一口」と箸やスプーンを入れたり入れられたり、というのが苦手なので、最初見たときは子供の頃だったが、妙に合点がいったものである。
日々変わるからこそ「同じようなもの」を安心して観たい
社長シリーズについては、「毎回同じようなものを飽きもせず撮った」というようなことを森繁久彌自身が生前振り返っていたが、高度経済成長で日々変わるからこそ、人々は「同じようなもの」を安心して観たのではないか。
テレビ時代劇『水戸黄門』に通じることかもしれない。
ちなみに、初代水戸黄門は、森繁久彌で内定していたのに、東宝の主演俳優が東映撮影所の作品に出演するのはいかがなものか、という横やりから、森繁久彌の友人の東野英治郎に代わったといわれている。
1960年代の明るく楽しい東宝喜劇。
機会があればぜひご覧頂きたい。
以上、『社長道中記』(1961年、東宝)は、南紀白浜を舞台に、森繁久彌社長の缶詰会社が大阪の商社と念願の取引にこぎつけた話、でした。
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