社長千一夜(1966年、東宝)は森繁久彌の『社長シリーズ』第26作である。観光地のホテルや別荘を扱う庄司観光が舞台。東京~大阪、九州は天草五橋、猿の高崎山、別府湾の眺望など観光映画としても一級品。黒沢年男、藤あきみなどが抜擢されている。
舞台は観光会社
本作『社長千一夜』の会社は庄司観光という。
「観光」といっても、観光旅行のツアーを企画する旅行会社ではなく、観光地にホテルや別荘を建てて利益を上げる不動産開発の会社である。
社長が森繁久彌、常務が加東大介、開発部長が小林桂樹、大阪支社長が三木のり平。
熊本出身の日系三世ブラジルの大富豪がフランキー堺である。
あらすじ
社長シリーズは、実在の出来事とリンクしたストーリーになっているが、本作『社長千一夜』は、1966年に開通した、熊本県宇土半島と天草諸島をつなぐ天草五橋がターゲットである。
不動産開発会社の庄司観光としては、天草五橋を契機に観光地として栄えるであろう熊本にホテルを建てたいと開発部長(小林桂樹)が企画する。
例によって、常務(加東大介)は慎重論を唱えるが、結局は社長(森繁久彌)がゴーサイン。
ただし、社長(森繁久彌)の責任でスポンサーを探すことになる。
そんなとき、大阪支社長(三木のり平)が、熊本出身の日系三世である大富豪(フランキー堺)の話をもってくる。
そこで、社長(森繁久彌)、新任の秘書(黒沢年男)、大阪支社長(三木のり平)は大阪に。
マダム(新珠三千代)の店で、一行は偶然、ロス・インディオスの演奏をバックに歌っていた大富豪(フランキー堺)と遭遇する。
企画は基本的に合意し、大富豪(フランキー堺)とマダム(新珠三千代)を含めたご一統は九州へ。
高崎山で、馴染みの芸者(藤あきみ)と会うが、大富豪(フランキー堺)はもう一目惚れしてしまう。
宴会の夜、秘書(黒沢年男)に背中を押された大富豪(フランキー堺)は、芸者(藤あきみ)の部屋を訪ね、正面からプロポーズ。
びっくりする芸者(藤あきみ)。
一方、社長(森繁久彌)との一夜のために、わざわざ九州までやってきたマダム(新珠三千代)だったが、「部屋が満員」といって泊めてもらいに入ってきた大阪支社長(三木のり平)のために、またしても浮気計画はおじゃんに。
しかし、芸者(藤あきみ)が大富豪(フランキー堺)の求婚を受け入れたことで、ホテル建設は正式決定する。
仕事がぎこちなく、常務(加東大介)や開発部長(小林桂樹)にしかられてばかりいた秘書(黒沢年男)が、大事なところで会社に貢献したという話である。
細かい点で気がついたのは、どちらかというとマダムズとしては控えめだった新珠三千代が、今回は積極的である。
そして、宴会の本命芸者は藤あきみだが、その当て馬役として、例によって塩沢ときが出演している。
この「お約束」ぶりが面白い。
天草五橋、高崎山、別府湾を紹介する観光映画
観光映画でもある社長シリーズ。本作『社長千一夜』のロケ地は、天草五橋と高崎山と別府湾である。
これが、左上から順に当時の天草大橋全景、そして一~五の橋である。
高崎山の猿も登場する。
別府湾の眺望はスクリーンから見ても絶景であることがわかる。
観光映画としても、『社長千一夜』は一級品である。
世代交代の意向が強くあらわれた『社長千一夜』
社長シリーズといえば、東宝クレージー映画、喜劇駅前シリーズ、若大将シリーズとともに、もといそれら人気シリーズを牽引する、1960年代の東宝(喜劇)を支える人気シリーズである。
全33作はまさに量質ともに日本映画史上の金字塔と言っていいだろう。
本作『社長千一夜』はシリーズ26作目だが、大きな節目となった。
簡単に述べれば、明らかに世代交代を意識した作り方になっていることである。
ひとつは、本作『社長千一夜』と、続編の『続・社長千一夜』を最後に、社長シリーズは第一作の『へそくり社長』から全作レギュラー出演していただった三木のり平と、

『社長洋行記』(1962年)以来、怪しげな日本語をしゃべる日系バイヤーとして怪演したフランキー堺が降板した。
2つ目は、秘書役だった小林桂樹が、本作『社長千一夜』では開発部長に昇進。
後釜の秘書として、新たに第4期東宝ニューフェイスの黒沢年男(黒沢年雄)が抜擢された。
加えて、女性秘書として原恵子も出演している。
この後ご紹介する、地方ロケのシーンはすべて、加東大介や小林桂樹は行かずに黒沢年男が行っている。
そして、少なくとも正編では必ず2人出ていたマダムズが、今回は新珠三千代のみで、
そのかわりといっていいたがとうわからないが、本作で大富豪を演じたフランキー堺と結ばれる芸者役で、若手の藤あきみが抜擢されている。
さらに、劇中で黒沢年男秘書は、手帳に加山雄三の持ち歌の歌詞を書いたり、フランキー堺が「ぼかぁ、幸せだなぁ」とか「お嫁においで」など、やはり加山雄三の持ち歌の歌詞やタイトルを言ったりするシーンがある。
実は、本作『社長千一夜』は当時、同時上映が加山雄三の『レッツゴー!若大将』だったのだが、加山雄三をPRするかのようなセリフは、長年東宝の屋台骨を支えてきた社長シリーズから、若大将シリーズにその首座をバトンタッチするかのような印象すら受けた。
若大将シリーズと社長シリーズは、本来ターゲットが異なると思われるが、この時は同時上映されており、その点でもファンの引き継ぎというか、社長シリーズのファンを若大将シリーズのファンとして取り込みたかったのではないか、と解することもできる。
いったんは、『続・社長紳士録』で終了するはずだった社長シリーズ。
『続・社長紳士録』(1964年、東宝)は当初最終作となるはずだった作品なので華やかな大団円フィナーレで締めくくり https://t.co/fTUwyNVSgD pic.twitter.com/bEU5kOoK8j
— 富士壱太郎@ネット著述屋 (@fuji_ichitarou) December 16, 2020
映画館主やスポンサーなど、営業方の意向で再開したが、やはり永遠にというわけには行かないので、シリーズ再開後は「バトンタッチ」の方法を模索していたのかもしれない。
いずれにしても、『社長千一夜』は傑作である。
ぜひお楽しみいただきたい。
以上、社長千一夜(1966年、東宝)は観光会社を舞台にした森繁久彌の『社長シリーズ』第26作目黒沢年男、藤あきみなどが抜擢された、でした。
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