『ダイナマイトどんどん』(1978年、大映/東映)は岡本喜八監督によるヤクザが野球チームで戦う史上最高のヤクザコメディー映画。東映ヤクザ映画ではお馴染みの菅原文太に、嵐寛寿郎、フランキー堺、松竹新喜劇の小島秀哉が絡む異色キャスティングである。
大映が作って東映が配給する
『ダイナマイトどんどん』(1978年、大映/東映)は、大映が製作して東映が配給した。
と聞くと、違和感があるかも知れない。
日本テレビが制作した番組を、フジテレビで放送するようなものだからだ。
実は、1942年に設立された我が国の歴史ある映画会社・大日本映画製作株式会社⇒大映株式会社は1971年に倒産している。
徳間書店が1974年に、そのブランドやライセンスを運営する子会社・大映映画株式会社⇒大映株式会社を作った。
そして、1977年には東宝のように部門ごとに分社化し、そのひとつとしてである制作会社が作ったのが、今回の『ダイナマイトどんどん』だったわけだ。
制作会社は、いうなれば、町工場や編集プロダクションと同じ。
本作は、制作会社「大映」で作ったものを、配給会社東映にお納めしたというわけだ。
したがって、本作は東映配給だったが、DVDは大映とその後権利を受け継いだ角川映画のロゴだけで、東映の例の波打の絵は出てこない。
しかし、他社制作だけあって、従来の東映にはなかった新鮮なキャスティングもあった。
菅原文太や北大路欣也などは東映的キャスティングではあったが、野球映画なのに東映フライヤーズ投手⇒東映の悪役になった八名信夫が出演していない。
ピラニア軍団も、山城新伍や梅宮辰夫やも千葉真一もいない。
その一方で、嵐寛寿郎や、フランキー堺、松竹新喜劇の小島秀哉など、通常の東映映画なら出てこなかった意外な出演者が出ている。
岡本喜八監督御用達の、岸田森も怪演している。
昭和40年代後半に青春スターとして活躍した石橋正次も、菅原文太チームである岡源ダイナマイツの一員で出ているが、たぶん東映が作っていたら、彼の役は、桜木健一がキャスティングされたのかもしれない。
桜木健一と石橋正次……、『君たちは魚だ』(1972年4月22日~1972年8月19日、TBS)を思い出してしまった。
まあそれはともかくとして、あらすじである。
あらすじ
予告編みるだけでも震えてくるぜ
ダイナマイトどんどん、ほんま好きwhttps://t.co/chtrPimdT2— M.Jaune@chocobo (@MageJaune) December 4, 2020
舞台は昭和25年。
北九州市になる前の小倉では、ヤクザの岡源組と橋伝組が縄張りをめぐって争い、町は騒然としていた。
進駐軍は暴力団一層のため、彼らに沖縄での強制労働をちらつかせており、困った警察は署長(藤岡琢也)の提案で、12組参加のヤクザ対抗野球大会を平和的に開催することにした。
こがもうユニークである。
新興ヤクザの橋傳組は、親分(金子信雄)から発破をかけられた代貸・花巻修(岸田森)が、札束で選手をかき集めた。
一方、菅原文太のいる岡源組は、中谷一郎を若頭に、菅原文太、小島秀哉、石橋正次、丹古母鬼馬二、志賀勝ら。
リアルで福岡出身の姐さん(伊佐山ひろ子)が気合を入れるものの、親分(嵐寛寿郎)は呂律も回らず短気なだけで使い物にならず。
やっと、やっと娼婦の野球をコーチしていた傷痍軍人(フランキー堺)を監督に迎えただけ。
そんな中で1回戦の岡源組はどうなったか。
野球はうまいが、酒に呑まれる芦刈の作蔵(田中邦衛)にきりきり舞いの岡源ダイナマイツだったが、加助(菅原文太)が強い焼酎を飲ませて自滅させる
2回戦は、岡源組の若頭・香取祐一(中谷一郎)がスカウトした流れ者の銀次(北大路欣也)で危なげなく勝つ。
しかし、菅原文太は北大路欣也の女房・お仙(宮下順子)に片思い。
北大路欣也はその関係を誤解しており、2人の気持ちは複雑である。
橋傳組の花巻修(岸田森)は、決勝戦を前にして、北大路欣也が世話になった岩国の親分に手を回して、強引に銀次を引き抜く。
それは岡源ダイナマイツの若衆(選手)たちの怒りにスイッチを入れ、試合はカチコミモードに。
いっぽう、狡猾な橋傳親分(金子信雄)は、短気でモウロクした岡源親分(嵐寛寿郎)を挑発して、決勝で負けたほうが縄張りを手放すという証文を書かせてしまう。
このへん、嵐寛寿郎の、おもしろ困った親分ぶりが絶好調で笑える。
そして決勝。試合はお互い、意図的な危険球合戦でタンカ続出。
そのたびに両チームは喧嘩になり試合は中断する。
加助らの表情や動きが、リズミカルで漫画的で、喜劇の鑑である。
岡本喜八イズムが全面開花だ。
『仁義なき戦い』で一世を風靡した人がそこまでやるのか、と思ってしまうほどである。
試合は、最後の最後に、お仙から縄張りの話を聞いていた銀次が手心を加えた一球を投じ、加助が逆転サヨナラの一打。
本当ならここで加助を胴上げして優勝旗の授与、といきたいところですが、彼らはここからが本番で、両チームの喧嘩が始まる。
ラストシーン。結局、勝った方も負けた方も、ご一統は沖縄の強制労働送りになるが、もう大会は終わったのに、彼らはまた野球を始める。
娯楽の中に反戦メッセージ
本作のタイトルは、試合開始時や途中の円陣で、岡源ダイナマイツ率いる菅原文太、もしくは小島秀哉が、「ダイナマ~イッ」と叫ぶと他のメンバーが、右足を踏み鳴らしながら「どんどん!」と気合いをいれるシーンに由来するといわれる。
このシーンが岡本喜八イズムで小気味良いのだが、小島秀哉が叫ぶシーンもあった。
菅原文太とは兄弟分の役でいい演技している、ずっと舞台一筋だった小島秀哉が、それだけ重要な役だったということだ。
いずれにしても、イズムはそれだけでなく、たぶん戦後の平和の象徴として野球を位置づけていた点も出色である。
たとえば、ストライクが入らない石橋正次が、よく見たらその前のしくじりで指を詰めていたことが発覚。
傷痍軍人のフランキー堺監督は、自分の伸びなくなった指を見せ、「戦争でんなんでんなか時に、自分で自分の指ば……バカモン」と叱る。
そして、当時日本に戻っていなかった沖縄で野球をするシーンを挿入することで、まだ復帰後ぎこちなかった沖縄も含めた我が国の平和を求めるメッセージとしたのではないか。
以上、『ダイナマイトどんどん』(1978年、大映/東映)は岡本喜八監督によるヤクザが野球チームで戦う史上最高ヤクザコメディー、でした。
ダイナマイトどんどん – 菅原文太, 宮下順子, 北大路欣也, 嵐寛寿郎, 金子信雄, 岸田森, 中谷一郎, フランキー堺, 小島秀哉, 石橋正次, 岡本喜八, 井手雅人
ダイナマイトどんどん [DVD] – 菅原文太, 宮下順子, 北大路欣也, 嵐寛寿郎, 金子信雄, 岡本喜八
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