昭和映画・テレビドラマ懐古房

『スチュワーデス物語』を語る風間杜夫「増村保造監督は曖昧な演技が要求されず台詞もはっきり大きな声で明瞭にと」

『スチュワーデス物語8』で明らかになった増村保造監督の演出
『スチュワーデス物語8』(大映テレビ)が、今も話題になっている。当時ヒットした『スチュワーデス物語』の最終回が収録されていることと、付録インタビューで、風間杜夫が大映ドラマのメイン監督だった増村保監督の演出について語っているからだ。

つまり、大映ドラマとは何だったのか、ということが明らかになっているわけだ。

『スチュワーデス物語』(1983年10月18日~1984年3月27日、TBS)とは、元日本航空社員の直木賞作家、深田祐介の同名小説(1983年新潮社)をドラマ化したもの。

といっても、原作の主人公・松本千秋は国立大学を卒業したエリートで、堀ちえみがドラマで演じた高卒の19歳とは全く違う。

小説の『スチュワーデス物語』の松本千秋は、国立大学を優秀な成績で卒業したエリートであり、全てにおいて如才なくふるまえる品格のある女性に描かれていた。

一方、ドラマは、ジャンボ機のパイロットであった亡き父の志を受け継ぎ、スチュワーデスに志願したドジでのろまなカメといわれる松本千秋を主人公に、彼女を含むスチュワーデス候補生478期生たちが村沢浩(478期担当教官)らの厳しい訓練に耐え、晴れてスチュワーデスとして大空に羽ばたいていくまでを爽やかに描いている。

大げさなセリフや、漫画チックな急展開シーンなど、大映ドラマのエッセンスを十分に反映させながらも、日本航空の全面協力を得て、設定にはリアリティをもたせている。

当時のドラマは全8巻のDVDに収録されているが、その最終巻である第8巻には、村沢浩を演じた風間杜夫が当時を振り返って語るインタビューも収録されている。

そこでは、大映ドラマのメイン監督だった増村保監督の演出手法について語られているのだ。

(増村保造監督は)曖昧な演技が、要求されないんですね。その人物は今、怒っているのか、強く愛しているのか、悲しいのか、嬉しいのか、悔しいのか、曖昧なニュアンスは求められないと。しかも、あの台詞ですから。それと、くっきりはっきり大きな声で明瞭に台詞を言うという。そういう独特な演出でしたからね。若干の戸惑いがあったんですけれども、これ、いちいち“これはできない”とか“これはおかしい”とか、言うんだったら降りちゃったほうがいいなと思ったんですけど。やる以上は楽しんでというふうに切り替えましてね。で、やりましたら、楽しかったですね(笑)体ごとぶつかっていく、という芝居が、なかなかテレビドラマではめずらしいジャンルではないかな、と思って。

風間杜夫の言う「若干の戸惑い」は当然である。

なんとなれば、「曖昧」さは、役者にとって大切なところだからである。

役者は台本通りにセリフを言うだけではない。

笑いながら悲しみを表現したり、間(ま)で芝居をしたりする。

ところが、役者が役者たらしめるところを、きわめて単純化したのが、増村保監督の演出した大映ドラマの演技だったというわけだ。

当時、堀ちえみの抑揚のない台詞回しが、おちょくられたものだが、あれはあえてダイコン演技を要求されたということになる。

大映ドラマの演技は“大げさ”を指示されていた

そして、堀ちえみの演技についてはこう語っている。

うまいとか下手とがじゃなくてね、求められてる演技が、たとえば増村監督はとにかく高い音を使うというか、台詞で音が高くなっちゃうのを嫌うんですよね。だから、(声を低めて)“私は、がんばる”とかね。(声を裏返して)“頑張る”とかじゃないんですね。汗拭くときもこうして(大げさにふく仕草をして)はっきりね、汗拭いているっていう演技(笑)ですからね、(監督の意図がそうだから、堀ちえみの演技は)あれでよかったんですけどね。あれ以上、(一般的な演技の評価として)うまくなられても困るんですけどね。あれがよかったんですよ。“教官、私ドジです、のろまです”って、あれがかわいいんですよね、けなげで

その後も、ホリプロのアイドルタレントが抜擢された大映ドラマには、抑揚を抑えた台詞棒読みがずいぶん出てくるのですが、必ずしもそれはそのタレントの「演技力」との断定的な評価はできない、ということだろう。

さらに、増村保監督の演出には、映像上次のような特徴があるという。

テレビというのは映画と比べると画面が小さいわけですね。でもその小さい画面に、もちろんアップというのはあるんですけど、そのシーンに、たとえば6人出てれば6人全員押し込めようとするようなね、人間を狭いフレームの中に押し込めようとするんです。ですから、2~3センチ顔の角度が変わるとダブっちゃうとか、隙間を縫って芝居するような、あれは増村さんの独特の絵作りでしたね

つまり、その場面にいる登場人物のすべてが、どんなリアクションなのか、ということをていねかに見せてしまおうという演出である。

すなわち、これもまた、増村保造監督の“曖昧でない演出”の一環なのである。

私も見なおしたところ、なんでもないところでは、堀ちえみは姿勢を正して、訓練センターで教わったようにきれいに歩いている。

いつも松本千秋は、「ドジでのろまなカメ」ばかりなので、注意されているシーン以外では、ちゃんとやってるところを意地になって見せているようで、それがなんとなくユーモラスである。

きっと、この堀ちえみという人は、リアルでは面白い人なんだろうな、というのが画面から伝わってきた。

どうだろう。

『スチュワーデス物語』、34年ぶりにDVDでご覧になられてはいかがだろうか。


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