昭和映画・テレビドラマ懐古房

『ありがとう』は十年一日のようなホームドラマから時の移ろいを表現し、星の王子様に嫁ぐ主人公の幸福でお化け番組になった

ありがとう、いつも心に青空を、ホームドラマの体裁で大河ドラマ
『ありがとう』(1970年4月2日~1975年4月24日、テレパック/TBS)といえば、昭和のテレビドラマ史に金字塔を打ち立てた名作ドラマである、Facebookでは、その『ありがとう』について振り返られていたので、それをご紹介したい。

ホームドラマを舞台とした大河ドラマ

『ありがとう』は、石井ふく子プロデューサー、平岩弓枝脚本によるホームドラマで、全4シリーズ放送された。

うち、1~3までが、水前寺清子、山岡久乃の母子家庭を中心とした物語である。

第1部は、母子が九(いちじく)保育園に住み込み、水前寺清子が婦人警官、山岡久乃は保育園のまかないに従事している設定だ。。

第2部は、十(つなし)医院に住み込み、水前寺清子が看護婦(看護師)、山岡久乃が准看護婦(准看護師)として働いている設定だ。

第3部は、母子が商店街で魚屋を営み、精肉店、青果店、酒屋、荒物店、電気店、焼き鳥屋などとの交流を描いている設定だ。

『お化け番組』というのは、この『ありがとう』のためにできた言葉かもしれない。

業界用語で、『お化け』『化ける』というのは、決して悪い言葉ではない。

異常なほどの人気をさすからだ。

塚原俊平という元運輸大臣が、電通のサラリーマン時代、『ありがとう』を観たいから残業を拒否したというエピソードを聞いたこともありる。

さて、冒頭の画像は、Facebookのタイムランで見たものである。

当時の視聴者が作った、第3部の出演者たちのポスターである。

当時のポスターを転載するのはよくあることだが、よく見ると、当時の出演者の「近影」になっている“オリジナル”だ。

ということは、亡くなった山岡久乃や児玉清、園佳也子などは入っていない。

芸能界を引退した佐良直美も入っているのが嬉しい。

ドラマは40年以上前に終わっているのに、視聴者の作るポスターは決して時間が止まっていない。

まさにこの作り方は、ドラマの本質を深く反映している。

ドラマは、主演が変わった第4部を除くと、第1部~第3部までが、山岡久乃、水前寺清子の母子家庭を中心に描いている。

そして、多くは同じメンバーが主要な配役につく。

第一部では、山岡久乃に直接教育される水前寺清子というボジションである。

第二部では、まだ山岡久乃が親として優位に立ちが、上から物申すのではなく、同じ職場でありながら、遠くから見守っている。

そして第三部では、母子関係が決定的に変化する。

どちらかというと、母親のほうが娘に依存する。

そして、母親は再婚し、家業の鮮魚店を娘に任せる。

つまり、第一部では母親にとどやしつけられていた娘が、ついに第三部で一本立ちしたのである。

人間も社会も自然も、決して止まったままではない。

実はこのホームドラマは、10年一日の世界のようでいて、実はしっかり時が移ろいでいる。

ホームドラマを舞台とした大河ドラマといった趣だ。

ここが、『サザエさん』と違うところである。

星の王子さまと結婚する幸せは男女お互いか

冒頭に、『ありがとう』はテレビドラマ史上に輝く金字塔を打ち立てたと書いたが、とくに『ありがとう』第2シリーズの第48話(1972年12月21日)は、視聴率56.3%を叩きだした『お化け番組』である。

水前寺清子が、密かに想っていた勤務先の医院の息子(石坂浩二)と遂に結婚する回である。

第1部~第3部まで、水前寺清子の相手はいつも石坂浩二で、すべて結婚することになっている。


TBSチャンネルより

その中で、今回放送される第2部がどうしてそれほど視聴率が高かったのだろうか。

それはやはり、設定が、星の王子さま+玉の輿に乗った設定

だったからではないだろうか。

第1部は、石坂浩二は九保育園の夫婦に引き取られて育った孤児だった。

第3部は、青果店の息子で、魚屋の水前寺清子とは、同じ商店街で店を構える「対等の関係」だった。

第2部だけは、医院の跡取り候補である医師と、片や母子家庭の住み込み看護婦という、「身分の違い」がわかりやすく描かれていた。

このドラマの放送された1970年代といえば高度経済成長時代。

「もはや戦後ではない」といわれた。

それでもまだ、戦前同様、「どんな男性と結婚できるか」が、女性の人生には最重要項目だったのである。

こうしたドラマは、女性の側はもちろん、男性の側から見ても、家や名誉のための政略結婚ではなく、愛情で相手を選んだという心地よさを感じるのだろう。

女性に希望をもたせ、男性の“度量”を見せることで、お茶の間の庶民に夢と希望と感動を与えれば、それは人気番組になるだろう。

冒頭の画像が投稿されたタイムランのコメントも幾つか引用させて頂く。

>近ごろホッコリ系のホームドラマ無くなったね 2000年代に入ってから 連ドラ面白いのないし 殺伐してたり ドロドロ←イジメ 虐待など取り上げたり 殺伐としてて 見る気になれない?? ほんと 昭和のホームドラマ毒がなくて ホッコリとして 安心して見れたね

>暴力や、殺人事件の謎解きがエンタメント化してるサスペンスドラマはもうたくさん!

>なつかしいですね。もう一度じっくり見直してみたいです。

子供の頃からクヨクヨすることが多かった筆者は、このドラマで、水前寺清子が、主題歌を歌いながら明るく仕事をしているシーンを観て、元気を出していた。

BS、CSで、何度でも放送して欲しい名番組である。


あせらず、おこらず、あきらめず –

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