渡哲也、意表を突く大胆な発想力による2つの人心掌握エピソード

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渡哲也、意表を突く大胆な発想力による2つの人心掌握エピソード
渡哲也といえば、石原プロを長年背負ってきた元社長であり、俳優でもある。石原プロは、渡哲也なしに語れないことは間違いないが、具体的な桁外れのエピソードを明かしているのが、芸能リポーターの城下尊之である。石原プロを長年支えてきた渡哲也にはどのようなエピソードがあったのか。

城下尊之は、渡哲也が石原プロ社長時代に経験した、2つの人心掌握エピソードを、自らの『日刊ゲンダイ』における連載(2016年1月23日付)「ビジネスに使えるスターたちの処世術」で述べている。

連載は3回目になるが、いずれも、石原プロが、いかにトラブルの際の危機管理に優れているか、という話である。

たとえば、『西部警察 SPECIAL』(2004年10月31日、テレビ朝日系)の撮影時、池田努が運転するスポーツカーが、見物人に突っ込んで男女5人を負傷させる人身事故が発生したときは、社長だった渡哲也が入院中の負傷者をすぐに訪問。池田努とともに謝罪し、連続ドラマの制作中止。当該ドラマも無期限延期するなど、とにかく迅速に対応した。

石原裕次郎時代から、マスコミ取材陣が訪れると、石原プロでは、「腹が満たされると腹は立たなくなる」という考えから、すぐに食べ物を振るまう先手を打った。

今回もその続きである。

『日刊ゲンダイ』における連載(2016年1月23日付)

ただ、今回は石原プロというよりも、元社長の渡哲也の、意表をついた大胆なアイデア2点を紹介している。

ひとつは、事務所の車の落書きエピソードである。

キャンピングカーにファンの思いを綴らせる

石原裕次郎が大動脈瘡の大手術で新宿の慶應大学病院に入院していた時のことである。

IPと書かれた石原プロの真っ白なキャンピングカーが3台、常に慶応病院の駐車場に止められていた。そして、しばらくする間に、その車すべてに「裕次郎さん、早くよくなってください」といった応援の落書きが始まり、書くスペースがなくなるまでになってしまった。
 ところが、この落書き、最初に書いたのは、渡哲也だった。普通、病院に駐車中の車に落書きしようなんて誰も考えない。だが、車の目立つところにメッセージがあれば、「僕も書いていいかな」と人は考えるものだ。しかも、その事の前には、ご丁寧にも、お見舞いに来たファンのための机があり、芳名帳と筆記具が置かれ、「名前だけでも残してほしい」とされていた。
 おあつらえ向きに、油性のマジックまで用意されている。となれば、車が真っ黒になるのも時間の問題だった。結果的にそれをワイドショーが「こんなにたくさんのファンのメッセージが…⊥と大々的に伝える。

要するに、キャンピングカーとファンの思いを使った、大プロモーションである。

「使った」というと、「利用した」というイメージがあるが、そうではなく、ファンが石原裕次郎を思う気持ちを、マスコミにわかりやすく表現したといった方がいいだろう。

その結果、華々しい宣伝効果を挙げることになったのだ。

油性ペンでは落ちないが、別に落とす必要もない。

むしろ、キャンピングカーにもファンの思いが書き込まれ、より価値が高まったのである。

つまり、誰からも反感を買わず、大胆なプロモーションを、機転を利かせて成立させてしまう判断力が渡哲也にはある、ということである。

もうひとつ書かれているエピソードは、やはり大胆である。

焼き芋屋を車ごと買い取ってしまう

渡哲也主演映画のロケが、原野ともいえそうな周囲に民家も商店もないところであった。

昼食時、スタッフ達中が、「こんな時は、石焼き芋なんてかじりながら仕事したいね」「ああ、甘いものも食べたいよな」とつぶやいていた。

すると、翌日、黒煙を出しながら1台のトラックが近づいてきた。

スタッフは、「芋屋さんを頼んでくれたんですか。すみません」と謝礼を述べたところ、当時の小林正彦専務が一言。

「バカヤロー、新車を買ったんだよ、新車!」

芋を食べさせるためだけなら、芋を差し入れればすむところを、なんと車ごと買ったわけである。

そんなこと、何の意味があるの? と思うだろうか。

芋を1人あたり2~3本食べさせたところで、もちろんスタッフはそれ自体感謝するかもしれないが、しょせん「2~3本」の感謝に過ぎない。

むしろ、そんなところのロケである以上、そのくらいの差し入れは当然、と思われてしまうかもしれない。

いずれにしても、そのロケ現場だけで終わってしまう話である。

そこで、ドーンと車ごと「差し入れ」をすることで、スタッフの度肝を抜く。

車ごと「差し入れ」という桁外れの行為にすることで、スタッフたちは、それぞれ自分たちの会社に帰ってから、それを話題にするだろう。

これが、もし「1人あたり2~3本食べさせた」だけだったら、わざわざ帰社してから大仰に報告はしないだろう。

実は、車ごとの差し入れであっても、実際にスタッフ一人あたりは、やはり「2~3本」かもしれない。

だからこそ、「車ごと」というスケールが大事なのである。

著者の城下尊之氏も、こうまとめている。

 もう、全員がピックリだった。撮影、照明、タイムキーパー、スタッフ、いろんな会社の寄り合い所帯の現場から、それぞれの会社に“伝説”としてこの話が伝われば、「石原プロの仕事は絶対断るな」となるだろう。スタッフを大事にする姿勢は大きな効果を生む。

そして、「石焼き芋の車ごと貫っちゃえよ」と小林正彦専務に助言したのは、渡哲也に間違いないと思っているそうだ。

石原プロお得意の炊き出しにしてもそうだが、石原プロはとにかく豪快である。

それだけ、お金もかかっている。

普通は、直接利益を生むためではないコストは、抑えたいと思うものである。

しかし、そこでケチったら、その行為自体が生きてこない可能性もある。

だから、渡哲也は、やるときは桁外れにやるのだ。

サービスに、どれほどのコストを掛けられるか。かける勇気があるか。

けだし、芸能プロダクションでなくても、成功する経営者の度量として重要な点かもしれない。

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  • 作者: 石原プロモーション
  • 出版社/メーカー: 青志社
  • 発売日: 2016/05/21
  • メディア: 大型本

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